北の「非核化」示唆、米紙の見る金正恩の真意は? 米韓亀裂も懸念事項
北朝鮮の金正恩氏らは6日、韓国の特使団と会談し、非核化に向けた米国との対話に前向きな姿勢を示した。これまでの強硬姿勢とは一線を画す展開について、ニューヨーク・タイムズ紙(3月6日)は「核の時代の最も危険な対立の一つが解消されるという希望をもたらす」と評価している。しかし、以前にも北は会談をちらつかせた時間稼ぎを繰り返しており、今回も同様ではないかとの慎重意見も散見される。
◆希望
会談に応じる構えを見せた北朝鮮について、ニューヨーク・タイムズ紙はおおむね肯定的な観測をしている。軍事的脅威の解消と安全の保障を前提に、北朝鮮は非核化の可能性を示した。韓国側の使節団によると「想定外に柔軟」な姿勢を北は示しており、米韓合同演習の中止など目立った要求はなく、ただ真剣な交渉を求めただけだったという。これを受け、かつて「炎と怒り」の方針を打ち出したトランプ米大統領でさえ肯定的な反応を示していると記事では伝える。
ウォール・ストリート・ジャーナル紙(3月6日)はやや慎重な受け止め方をしているものの、トランプ政権の圧力姿勢が奏功し、北が歩み寄った可能性を否定しない。経済制裁により、燃料、食料などの中国からの輸入が急減しており、上級幹部への報酬に必要な贅沢品も不足している。窮状を打開すべく北が核放棄のカードを切る可能性も期待できると同紙は見ている。
◆慎重論
ただし、北は過去にもアメリカとの交渉に応じる姿勢を度々見せてきた。ウォール・ストリート・ジャーナル紙は、現政権の父と祖父も交渉で時間稼ぎをしつつ核開発を進めてきたと指摘する。警戒を強める同紙は、非核化が実現するまでは、交渉に乗って米韓合同演習の停止などに踏み切らないようにすべきだと釘を刺す。
トランプ氏の受け止め方についてワシントン・ポスト紙では、楽観姿勢のニューヨーク・タイムズ紙と異なり、政権が交渉の行方を懸念し「偽りの希望」を警戒していると報じている。交渉の意思を見せた北だが、これは核兵器開発の停止を即座に意味するものではない。事実、5日にはプルトニウム生産再開の兆候が衛生写真から確認されている。
また、記事では過去の交渉を振り返り、米韓同盟の終結とアメリカ軍の韓国からの撤退が条件にされたと述べている。繰り返し交渉を利用してきた北朝鮮の姿勢に学んだアメリカは、この条件を呑まないだろうというのが同紙の予測だ。
◆米韓不和
不透明な北朝鮮の真意に輪をかけて懸念されるのが米韓関係の悪化だ。ニューヨーク・タイムズ紙によると、文在寅韓国大統領の融和姿勢に対し、米政府の一部はフラストレーションを募らせている。一例としてオリンピック開会式で文氏は、金氏の妹のすぐそばに着席し、ペンス米副大統領との会談を取り付けようと図った。こうした姿勢に加え、貿易摩擦も米韓の軋轢の種だ。トランプ氏は鉄鋼の関税強化を打ち出しているが、韓国はアメリカへの世界第3位の輸出国となっていることから摩擦が予想される。
オリンピックについてはワシントン・ポスト紙も、北朝鮮参加をめぐる文氏の砕心がトランプ氏との間に亀裂を生んだと指摘している。また、「しかし北との会談については韓国国内にさえ深い分断がある」と韓国内部の世論を記事は懸念する。現状では特別な要求を述べていない北朝鮮だが、後出しで条件が出された場合、米韓が一枚岩となって交渉に望めるかは不透明だ。