上院独占、独裁強めるカンボジア 背後に中国 欧米は非難も日本は援助継続
カンボジアの上院選が2月25日に行われ、与党人民党(CPP)が全議席を独占した。この選挙は、政府が主要野党を排除した後に行われたものだ。民主主義から逸脱していると非難するEUやアメリカとは対照的に、日本政府は7月の総選挙(下院選)でも協力を行うと約束。カンボジアへの支援継続を表明している。
◆見せかけの民主主義。独裁色強まるカンボジア
30年間権力の座にあるカンボジアのフン・セン首相は、民主主義の枠組みを維持しつつも、野党に対しては不寛容だとAPは指摘する。2013年の総選挙と昨年のコミューンと呼ばれる地方自治体の選挙で、野党救国党(CNRP)が躍進を遂げたことから、フン・セン氏は同党の排除に動いた。昨年11月、裁判所の命令によりCNRPは解党させられ、その後リーダーのケム・ソカ氏が、国家反逆罪で逮捕されている。APによれば、フン・セン氏率いるCPPはより攻撃的になっており、政府に批判的なメディアは封鎖に追い込まれ、CNRPのほとんどのシニア・メンバーが海外に脱出したという。
カンボジアの上院議員は有権者の投票ではなく、コミューン議員と下院議員の投票によってほとんどが選ばれる。今回の上院選は、CNRPの解党により、同党所属のコミューン、下院議員の議席が他党に再配分された後だった。CNRP以外の党は弱小で、コミューン議席の95%以上を現在はCPPが握っていることから考えれば、いかに上院の議席独占が簡単だったかがわかるとAFPは述べている。著書『フン・センのカンボジア』で、政権の問題を描いた作家のセバスティアン・ストランジオ氏は、CPPの最近の弾圧は、見せかけの民主主義から、一党独裁の新時代を確立するためのものだと指摘している(AFP)。
◆反対派は国際社会に助けを求める。欧米は反応
CNRPをケム・ソカ氏と共同で立ち上げたサム・ランシー氏は、今回の選挙は「茶番」だとし、国際社会が非難するよう海外から声明を出している(AFP)。前CNRP副党首で海外在住のムー・ソファ氏も、「国連と国際社会が今回の上院選を非難し、独裁は許さないというシグナルとして、制裁も含めた早急で厳しい対策を取ってほしい」とコメントしている(AP)。
APによれば、すでにアメリカとドイツは、民主主義悪化の責任があるとされる特定のカンボジア政府関係者へのビザの発給を禁止している。また、EUとアメリカは、7月に行われるカンボジアの総選挙へのサポートを取りやめた(AFP)。
◆中国を意識?日本は選挙への協力を約束
欧米とは対照的に、日本は7月の選挙に使用する、日本製投票箱などの選挙用物品の供与として、8億円の資金協力を約束している。堀之内駐カンボジア日本大使は、投票箱はカンボジアの民主主義のための日本の援助だと説明している。(ロイター).
政治アナリストのLao Mong Hay氏は、日本は制裁よりも援助によってよりカンボジア政府に影響を与えることができると考え、欧米とは別の戦術を取っているのかもしれない、と見る(現地紙クメール・タイムズ)。ロイターによれば、カンボジアにとって最大の援助国は中国であり、フン・セン氏の後ろ盾になっているという。投票箱やブースなどの選挙に必要な道具は中国も供与を約束しており、日本としてもここで協力しなければ、中国の影響力が増々強まってしまうという政治的事情もあったのかもしれない。
クメール・タイムズによれば、安倍首相は、カンボジアの発展と繁栄の援助の継続にフルにコミットするとフン・セン氏に宛てた書簡に記しているが、独裁化への支援ともなりそうなだけに、内外から批判を浴びる可能性もある。すでに反逆罪に問われているケム・ソカ氏の娘のKem Monovithya氏は、「なぜ何百万人ものカンボジア人の意志を奪う、偽りの選挙をサポートするのか」と資金協力を批判し、日本に説明を求めているという(クメール・タイムズ)。