トランプ氏、中東和平仲介の意思なし 支持層のためにエルサレムを首都認定

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 トランプ大統領は現地時間6日、エルサレムをイスラエルの首都と正式に認めた上で、米大使館をエルサレムに移転する方針を正式に表明した。エルサレムは、イスラム教徒、ユダヤ教徒、キリスト教徒がそれぞれ聖地と位置付けており、国際的にはイスラエルの首都とは認められていない。ロイターでは、首都認定を避けてきたアメリカの数十年に渡る方針を転換するものとしてこの動きを報道している。トランプ氏の支持基盤である保守系共和党員へのアピールとのことだが、中東での新たな火種となりかねず、国際社会からは非難が相次いでいる。

◆歴史的対立
 イスラエルのハアレツ紙では、今回のトランプ氏の意志表明を受け、エルサレムをめぐる歴史的紛争を振り返っている。キリスト教徒にとってエルサレムはキリストが死を遂げた場所であり、重要な聖地である。一方でイスラム教徒にしても、預言者モハメドの旅の目的地である「最も遠いモスク」の所在地として、エルサレムは聖地になっている。また、ユダヤ人もエルサレムの「神殿の丘」全域を聖地と捉えており、3つの宗教が同じ都市を重要視している状態だ。過去には中東戦争の原因ともなっている。イスラエルとパレスチナは25年以上に渡って交渉を続けているが、合意の目処は立っていない。

 ニューヨーク・タイムズ紙(NYT)によると、イスラエル政府は1948年以来エルサレムに所在してきたものの、米国は国際社会の認識と足並みをそろえ、エルサレムをイスラエルの領土としては認めてこなかった。米大使館がエルサレムに移転すれば首都であると認めることになり、従来のアメリカ政府の立場とは一転する形になる。

◆噴出する不満
 イスラエル政府は、移転に好意的な反応を示す。タイムズ・オブ・イスラエル紙は、野党労働党のアビ・ガベイ氏を含め、左右両派のユダヤ系イスラエル議員は歓迎の意を示していると報じる。ウリ・アリエル農業相も、70年間待ちわびたことが現実になったと喜ぶ。一方、アラブ系主体の「ジョイントリスト」の議員は、批難のコメントを発表すると同時に、アメリカの動きが正式な判断ということではないと釘を刺す。

 関係諸国の反応は、驚きと怒りに満ちている。ワシントン・ポスト紙(WP、12月6日)によると、トランプ氏はパレスチナ暫定自治政府のアッバス議長、ヨルダンのアブドラ国王、サウジアラビアのサルマン国王に電話で意思を伝えた。「この知らせを歓迎した者は誰もいなかったように思われる」と記事では述べている。懸念を表明した国は、ヨルダン、フランス、トルコなど少なくとも14ヶ国に上るという。

 NYTは社説の中で、特にサウジからの激しい反発は予期できたと指摘する。同国はアラブの平和イニシアチブを主導しているが、これはイスラエルが東エルサレムから完全に撤退することを主軸に据えたものだ。この計画と真っ向から対立する移転計画についてサウジ国王は「最終的な和平協定を待たずにエルサレムに関して判断を示すことは、交渉を損ない、地域の緊張を高める」と警告している。

◆交渉役の資質に疑問符
 今後懸念されるのは、イスラエルとパレスチナ間の和平交渉の行方だ。WPは、これまでアメリカには和平プロセスの仲介役としての役割が期待されていたとする。しかしエルサレムを首都と認めたことにより、イスラエル側に肩入れする姿勢が明確となった。もはや仲介役を果たす意思はないと同紙は見る。

 NYTは、トランプ氏が(エルサレムの位置付けなど)中核的な問題に言及しないのであれば和平交渉に影響はないという見方を紹介している。ただしこれまでの氏の言動から、繊細な問題を避けた振る舞いができるかについては疑わしいとしている。

 同紙では、今回のトランプ氏の動きについて、氏の支持基盤である親イスラエル系の保守勢力やキリスト教福音派へのご機嫌取りが動機との見方を示している。内向けのパフォーマンスが中東の情勢に影響を与える形となってしまったようだ。

Text by 青葉やまと