「全米射程」への米メディアの反応 「核搭載できないから脅威ではない」
北朝鮮は11月29日未明、新型の大陸間弾道ミサイル「火星15」を発射した。航続距離で従来型よりもはるかに優れ、アメリカ本土の全域が射程に入るという。ワシントン・ポスト紙によると、格段に威力を増した今回のミサイルは、国際宇宙ステーションの10倍の高度まで達したとのことだ。加速する北のミサイル開発だが、アメリカの強硬姿勢が招いた事態だという指摘も出ている。
◆首都ワシントンが射程に
ウォール・ストリート・ジャーナル紙(WSJ)によると、今回のミサイルは平壌から約30キロ北の地点から発射され、約1時間の飛行を経て日本の排他的経済水域に着水した。北朝鮮の主張によると、首都ワシントンを含むアメリカ全土が射程に入るとのことだ。
ワシントン・ポスト紙(WP、11月29日)では北朝鮮のテレビ放送の内容を取り上げ、キャスターが「私たちのロケット開発工程が完了したことを意味する」と述べたと伝えている。
ただし、ロケット自体はアメリカに届く可能性があるものの、核弾頭を搭載できるかは別問題だ。WSJでは科学者らの分析結果に着目し、実戦用の重量のある核弾頭を搭載した場合、ワシントンには到達できないとの見方を示している。
他紙も同様のスタンスで、WPでは、ミサイルへの核弾頭の搭載技術が確立しておらず、温度や振動に耐えられないと見ている。USAトゥデイ紙では北米航空宇宙防衛司令部の見解として、北米大陸にとっては脅威にならないとしている。
◆アメリカ政府と世界各国の反応
アメリカ政府内では、軍事的報復に出るべきかに関して見解が分かれている。WPによると、トランプ米大統領は北朝鮮に対し、外交的解決はすでに時間切れであり、軍事行動の選択肢があるとの姿勢を鮮明に示している。政界では軍事行動を求める声が高まっているとのことだ。一方、ティラーソン米国務長官は、平和的解決がまだ可能だとの認識を示している。飛び火を恐れる韓国も、武力行使反対の声を上げている。
日本の反応としては、安倍首相が経済制裁強化の必要性をアピールしたと同紙が報じている。またUSAトゥデイ紙によると、日本政府は発射の前日、無線傍受によりミサイル発射の可能性を認識していた。ニューヨーク・タイムズ紙(NYT)では、日本政府が今回、Jアラートを発報しなかったことにも触れている。
そのほか、WPによると、ドイツ外相をはじめヨーロッパからも非難の声明が出ている。射程距離の拡大に伴い、世界各国に懸念が広がっている。
◆アメリカの強硬姿勢
確実に技術開発を進める北朝鮮だが、アメリカの強硬な対北姿勢が裏目に出ているとの見方もある。NYT(11月28日)では、今回のミサイル発射を「テロ支援国家のリストに再指定されてからの、トランプ大統領への大胆な挑戦」と見ている。ある科学者は、今後も開発を続けることを示すための準備運動のようなものだと捉えている。トランプ氏は過去に北への「炎と怒り」「完全な破壊」を宣言していた。こうした姿勢が北のミサイル開発を招いたと同紙は見る。
WPも同様の立場で、ミサイル発射はトランプ政権の「最大の圧力」をかける戦略に屈しないという意思の表れだと分析する。アメリカの核不拡散の専門家も、トランプ氏の圧力中心のアプローチは機能していないと指摘している。首都を狙えるミサイルの完成により、今後の対米交渉を有利に運ぶ機会を北朝鮮に与えてしまったと専門家は指摘する。
アメリカが直ちに危機に陥ることはないにせよ、現政権のアプローチが世界的な危機を加速したのではないかと各紙は捉えているようだ。