「アジアの調停者」の座を降りるトランプ大統領、関係改善に動く日本と中国
アジア主要国が関係改善に動いている。ニューヨーク・タイムズ紙は、APECと並行して日中首脳が会談を行い、安倍首相と習近平国家主席が関係改善に向けた意欲を確認したと報じる。サウスチャイナ・モーニングポスト紙では、日中に加えて中韓の関係も前進しつつあるとしている。それらのメディアの間では、アジアの状況に変化をもたらしているのはトランプ氏の気まぐれ外交だという見方が出ている。
◆アジアに募る危機感
従来アメリカを調停者として成り立っていたアジア諸国の関係が、トランプ氏の移り気な外交政策によって変化している。サウスチャイナ・モーニングポスト紙の11月16日の記事は「わずか12ヶ月で、アメリカは信頼できる成長のエンジンから契約の破壊者に変化した」と、アジア諸国にとってアメリカがもはや頼れる存在ではなくなったことを強調する。TPPとパリ気候変動協定から離脱し、5年間続いた米韓の自由貿易協定の再交渉を迫るなどするトランプ氏に、アメリカ中心の外交政策は危険だとアジア諸国は感じていると同紙は見る。
先日のアジア歴訪でトランプ氏は、中国とのビジネス関係の強化を鮮明にしている。ニューヨーク・タイムズ紙は、米中の接近による疎外化を日本が警戒しているのではないかと指摘する。日本国内の産業界からも、中国がユーラシア地域で展開するビジネスに参画したいとの声が上がっているようだ。アジア地域の覇権国を目指す中国側としても、従来日本を敵対視してきた態度を改め、ビジネスのパートナーとして捉え始めているという。予想できない言動でアジアに不安をもたらしたトランプ外交が、思わぬ結束をもたらしたと同紙は見ている。
◆対北朝鮮で団結
安全保障面でも日中の利害が一致するとの見方がある。サウスチャイナ・モーニングポスト紙は、アメリカがアジアの調停者としての立場から身を引きつつあることから、アジア諸国が自身でリスクヘッジを行う必要が出てきたと分析する。同紙は前掲の別の記事でも共通の危機を前に結束する日中の姿を報じ、韓国もこれに同調する可能性があるとしている。
ニューヨーク・タイムズ紙では、前述の経済面が日中接近の主要な動機であると捉えているものの、北朝鮮問題も副次的な理由づけになっていると伝える。これまでの安倍首相は、トランプ氏のアプローチを追従する形で対北の圧力と制裁措置に協力してきた。記事によると、今後は中国との連携も強めてゆく方向性のようだ。日中関係としては、領海問題を抱える海域に中国側が今夏は漁船団の派遣を行わなかったほか、安倍首相が双方の国の訪問を提案するなど、関係に変化が見られる。北朝鮮による脅威とアメリカ不在の状況で、両国は互いの位置付けを再評価しているようだ。
◆関係維持なるか
良好な関係は持続するだろうか。ニューヨーク・タイムズ紙では、2008年の取り組みが短命に終わったと指摘する。当時の胡錦濤国家主席と福田康夫元総理の間で、長期的な友好関係へのコミットメントが表明された。しかしこの関係はたった2年で反故にされている。
建設的な議論を難しくしている要因は、両国に横たわる歴史問題だ。ある中国の有識者は、サウスチャイナ・モーニングポスト紙の記事の中で、両国が歴史問題への言及を避けているのはあくまで一時的な姿勢だと語っている。尖閣諸島問題などは解決しておらず、関係次第では再燃の可能性も拭えないとのことだ。
ディプロマット誌(11月15日)では「日中は明らかに関係改善に動いている」とする一方で、今回の会談の成果を安倍首相側がやや楽観的に捉えているのではないかとも指摘する。日本側は北朝鮮問題で大きな役割を中国に期待したが、会見後の習氏は特にこの話題に触れることはなかったようだ。
友好ムードへ動き出した日中両国だが、実効的な合意へ到達できるだろうか。