アジア歴訪総括 米国のアジアでの影響力を弱めるトランプ氏
トランプ米大統領は今週、5ヶ国をめぐるアジア歴訪の全日程を終えた。「1兆ドルの価値」(米政治メディア『ポリティコ』、11月14日)があったと誇らしげな氏だが、メディアの反応は冷ややかだ。中国を称賛した翌日には逆にこき下ろすなど、不安定な態度でアジアに混乱をもたらした。また、アメリカ第一の姿勢はASEAN諸国の中国への依存度を高め、却ってアメリカのプレゼンスを低下させているとの指摘も出ている。
◆2国間交渉は現実的か? 唯一の成果も「フェイクニュース」扱い
TPPに反対するトランプ氏がこだわるのは、各国との2国間貿易交渉だ。ブルームバーグ(11月15日)は、トランプ氏のアジア訪問中にTPP加盟国が条約推進で合意したことを伝えている。一方でトランプ氏はアメリカ第一の態度を鮮明にし、「我々と貿易面で付き合っている全ての国は、ルールが変わったことを認識している」とあくまで強気だ。
孤立するアメリカは2国間交渉を模索するが、道は見えない。交渉には相手国の同意が必要なことから、TPPを離脱した今、「アメリカだけが2国間交渉を望むなら、ダンスパートナーを見つけるのに苦労するだろう」との観測筋の発言をポリティコは伝えている。
唯一目立つ成果は中国との2500億ドル(約28兆円)に上るビジネス面での合意だが、早くもメディアは疑いの目を向けている。ポリティコによると、ブルームバーグが仔細を分析したところ、ほとんどの契約は実現に時間を要するもので、しかも拘束力のないものであったという。
サウスチャイナ・モーニングポスト紙(11月15日)に記事を寄せたジャーナリストのステファン・ヴァインズ氏は、会談前から存在していた契約が含まれることや、契約には程遠い覚書レベルの案件も算入されていることなどを指摘している。中国との交渉成果は「良くてフェイクニュース、悪くて詐欺」という批判ぶりだ。
◆一貫しない姿勢:歩み寄りと拒絶
自由奔放なトランプ節は健在で、今回のアジア訪問でも関係国を混乱させた。ニューヨーク・タイムズ紙(11月11日)は、習近平国家主席を誉めそやした翌日、ベトナムで中国の貿易姿勢をあげつらったという逸話を紹介している。また、北朝鮮への対応で中国および韓国との関係を強化する一方、小国へはあからさまにアメリカ第一主義を貿易面で押し付けるなど、アジア全体への姿勢として見るとちぐはぐさが目立つ。同紙は中国を「地元のいじめっ子」と表現し、そこから小国を守るのがアメリカの責務ではないかと論じる。
小国を突き放した態度だが、戦略の一環との見方もあるようだ。ブルームバーグによるとトランプは、「我々はこの地域のパートナー国に、強く、独立し、成功し、運命を自身でコントロールして欲しく、いかなる国家の取り巻きにもなって欲しくない」と発言している。そのためブルームバーグでは、アメリカへの依存度を意図的に下げさせる狙いがあると見ているようだ。
同記事によると、ASEAN諸国の対中貿易額は15%となり、対米の9.4%を上回っている。2007年には対米の方が大きかったとのことだ。アジア諸国の自立を図るトランプ氏だが、現実的には中国への依存を促し、アメリカの影響力を下げているだけだとの指摘も出ているようだ。
◆中国がかつてのアメリカのポジションに
アジアで弱まるアメリカの存在感を好機に、勢いをつけているのが中国だ。ブルームバーグによると習氏は、ベトナムで行われたAPECでのスピーチにおいて、グローバルな貿易によるメリットを強調した。開かれた経済という視点は、かつてのオバマ政権を思わせる。
ニューヨーク・タイムズ紙では、習氏の象徴的な発言を引用している。「開放は進歩を生み、閉鎖するものは必然的に遅れを取る」。従来アメリカが果たしてきた役割を、今回は中国が担っていると同紙は捉えている。
戦果を誇るトランプ氏と裏腹に、アジア歴訪に関する評価はアメリカ国内でも芳しくないようだ。