トランプ氏国連演説の是非 拉致問題取り上げる海外メディア 「完全破壊」には非難
アメリカのトランプ大統領は19日、国連総会で初の演説を行った。「北朝鮮を完全に破壊する」と発言するなど、トランプ節は止まる所を知らない。ただし武力行使を滲ませた発言については、北朝鮮への刺激を避けるべきだと警告するメディアが多く、東アジアはもとよりアメリカメディアからも批判の声が上がっているようだ。
◆「北朝鮮の完全破壊以外に選択肢はない」
北朝鮮に対するトランプ氏の強い非難は海外メディアで広く伝えられている。ワシントン・ポスト紙(9月19日)は国連での演説内容を引用し、「アメリカは優れた強さと忍耐力を持っているが、自国や同盟国を防衛する必要に迫られれば、北朝鮮の完全破壊以外に手段を持たないだろう」とする強気の内容を伝えている。演説は北朝鮮の最高指導者である金正恩氏を「ロケット・マン」と揶揄するなど、非常に好戦的なトーンだ。
オーストラリア放送協会ではこの演説について、国連のスピーチというよりは時おり選挙演説のようにすら感じられた、と激しさを表現する。金正恩政権を「堕落した政権」「犯罪者の群れ」と呼んでおり、同氏初となる国連演説でもトランプ節が炸裂した。核・ミサイル実験を繰り返す北朝鮮への強い怒りを感じさせる。
◆北朝鮮周辺国は発言を危険視 日韓は沈黙
トランプ氏の発言は北朝鮮を刺激すると見られ、周辺国の反応は必ずしも芳しくないようだ。中国紙グローバル・タイムズ(9月20日)は『トランプの国連演説は朝鮮半島の平和への希望を損なう』と題する社説の中で、「北朝鮮を極限まで追い詰めれば、結局は血まみれの戦争を引き起こすかもしれない」と警告する。別の中国紙チャイナ・デイリーでも、今日の危険な硬直状態は、両国のリーダーが対話を怠り、自国の利益ばかりを求めた結果だとしている。北朝鮮だけでなく、アメリカ側にも緊張の責任があるとしている点が特徴的だ。
演説に対する批判は、アメリカのメディアさえも追認するところだ。タイム誌によると、北朝鮮は小学生を対象とした洗脳教育を行っており、遠足の目的地である博物館では、米軍が朝鮮戦争で行ったとされる非人道的な行為を示す展示物が陳列されている。こうした状況の中でアメリカが武力に訴えれば、北朝鮮国民は正義を信じて立ち上がり、金正恩政権のために団結する結果に終わると見ている。
このほか周辺諸国の反応はワシントン・ポスト紙に詳しく、国境を一部接するロシアの外務機関リーダーは「未熟さの表れ」と発言を強く非難している。日本と韓国は武力行使の発言に関して公式には沈黙しているが、両国とも国土の荒廃を憂慮しているのではと専門家は分析している。北朝鮮への断固とした態度を示した国連演説だが、不用意に緊張を高める危険性があることから、各国の反応は芳しくないようだ。
◆拉致問題にも言及 公式な発言はアメリカとして初
演説ではそのほか、北朝鮮による拉致問題に触れている。アメリカが公の場でこの話題に言及するのはこれが初となる。香港のサウスチャイナ・モーニングポスト紙では、少なくとも17人の日本国民が北朝鮮に拉致されたことや、さらに多くの被害者がいると思われることなど、一連の事件のあらましを伝えている。日本のある官僚は、スピーチは日本への深い理解を示したものだと捉えているようだ。
拉致問題の件はオーストラリア放送協会も取り上げており、13歳の少女が海岸で拉致されたスパイへの言語教育を強いられたと伝えている。スピーチを通じて各国メディアで日本の拉致問題に焦点が当てられた意義は大きい。
国連という場でも一切妥協のない発言を行ったトランプ氏だが、北朝鮮への対処で関連諸国との連携は必須だ。今後どのように調整に持ち込むかが注目される。