なぜ英ケンブリッジ大は中国の圧力に屈したのか? 中国に不都合な論文へのアクセスを遮断
英国のケンブリッジ大学出版局が出版している現代中国関連論文誌「チャイナ・クォータリー(The China Quarterly)」の中国版ウェブサイトで、中国政府からの要請に応じて一部の論文を非公開にする措置が取られた。中国政府から、この要請に応じない場合はサイト全体へのアクセスをブロックするとされたため、同出版局は要求を受け入れたという。非公開にされた論文は文化大革命、天安門事件、新疆ウイグル自治区、香港、台湾、チベット少数民族などに関する約300余件の学術文書で、出版局側は8月18日までに中国からはアクセスできないような措置をとった。
◆苦渋の選択も、非難続出
しかし、この検閲の海外輸出に「学問の自由」への危機感を感じた各国の中国関係の研究者などが中心となり抗議。地元イギリスのガーディアン紙によれば、アクセス遮断の解除を求めるネット署名には賛同者が600人以上集まり、中国の理不尽な要求に迎合するなら出版物をボイコットするというコメントも寄せられたという。そのため21日、同出版局は再び閲覧を可能とすると発表した。
◆中国の経済力に屈した名門出版
16世紀、エリザベス1世の時代に設立された歴史あるケンブリッジ大学出版局。今回の一件は、押しも押されもせぬ(はずの)学術界の権威が中国の圧力に屈したという形で伝わった。先述のガーディアン紙はこのニュースを、ケンブリッジ大学出版局は「魂を売った」と非難されているとした記事を掲載し、数名の大学教授のコメントを掲載している。その記事の中で、自身の著書が検閲に引っ掛かり、何度も中国入国を拒否されているというジョージタウン大学の歴史学教授ジェームズ・ミルワード氏は、中国政府の検閲を通ったバージョンを掲載するならば出版物自体を禁止されてよいという立ち位置を貫いたニューヨークタイムズ紙やエコノミスト誌と比べ、ケンブリッジ大学出版局の引け腰の対応に怒りを露わにしている。
今回のケンブリッジ大学出版局の決定の背後には、中国国内で同出版局の英語教材が大きな利益を生んでいるという事実がある。フィナンシャルタイムズ紙によれば、それら出版物の売り上げは、過去5年間にわたって中国市場で二桁の伸びを示しているという。売り上げ冊数は過去8年間で300万冊以上、前年の会計年度では3億600万ポンド(約431億円)のセールスを記録している。
同出版局は世界で最も長い歴史を持った出版社だ。中国政府が脅すように中国市場での利益が減ったとしても、利益よりも大切な、守るものがあったはずだ。
◆海外への言論弾圧輸出に尊厳を持った「NO」を
中国政府の「学問の自由」を奪い取る検閲や情報操作は今に始まったことではない。今回のように海外の出版社にまで圧力をかけたのは極めて異例であり、中国政府が広範囲な統制を図っていることを物語っているが、批判が大学側に集まったことでも分かるように言論の自由を重んじる外国諸国が言論弾圧に「NO」という姿勢を見せることが大切である。
これは、日本にも言えることだ。中国がその経済力で圧力をかけてきたら、果たして日本は尊厳を持って「NO」と言えるのだろうか?