韓国大統領の対北朝鮮政策は間違っているのか
著:Markus Bell(シェフィールド大学 Anthropologist and Lecturer in Korean and Japanese Studies)、Marco Milani(南カリフォルニア大学 Dornsife College of Letters, Arts and Sciences Postdoctoral Scholar, Korean Studies Institute)
北朝鮮がまたもミサイル発射実験を決行した。今や北朝鮮の核問題に対し、韓国、アメリカのいずれの取り組みも大した成果を挙げていないというのは明らかだ。文在寅 (ムン・ジェイン) 韓国大統領は北朝鮮の金正恩国家主席との対話を約束したものの、未だ実現できていない。一方トランプ政権は北朝鮮に駆け引きを仕掛けながら、中国に対し核問題「解決」に向けた介入を公に要求するなど、その対応は揺れている。
北朝鮮が最新型大陸間弾道ミサイル (ICBM) の試験発射を行ってもなお、各国の取り組みに大きな変化は見られない。文大統領は発射実験を受け、制裁措置の強化、韓国所有の弾道ミサイルシステムの改良、そしてTHAAD (終末高高度防衛ミサイル) 発射装置の追加配備を要求した。トランプ大統領は中国が「この問題を簡単に解決できる」のにと「中国への失望」をツイートした。
I am very disappointed in China. Our foolish past leaders have allowed them to make hundreds of billions of dollars a year in trade, yet…
— Donald J. Trump (@realDonaldTrump) July 29, 2017
…they do NOTHING for us with North Korea, just talk. We will no longer allow this to continue. China could easily solve this problem!
— Donald J. Trump (@realDonaldTrump) July 29, 2017
北朝鮮の核問題に関与する国の中で唯一北朝鮮だけが、核弾頭付き弾道ミサイルの開発という目的に向け前進しているようだ。北朝鮮は再三にわたり核実験を繰り返しており、もはや問題を楽観視することはできなくなっている。結局のところ対北朝鮮対策について米韓の合意は今もなお得られないままだが、6月末頃には文大統領、トランプ大統領の初会談に国際社会の期待が高まっていた。北朝鮮はちょうどその時を狙って初のICBM発射実験を成功させ、そのミサイルはアラスカまで届くと報じられた。直近に試験発射したミサイルは、ロサンゼルスやシカゴも射程圏内としているようだ。
北朝鮮をめぐる問題は膠着状態が続いている。文大統領はこの状況を打破しようと尽力しているが、北朝鮮に阻まれてしまうのはなぜだろうか。
◆複雑な状況
文大統領は北朝鮮に懲罰的な制裁措置を課そうとする従来の方針を変え、北朝鮮との協力と対話を中心とした対北朝鮮政策を進めようと懸命に取り組んでいる。初期の計画では、次期冬季オリンピックの南北共催という案もあったほどだ。しかし北朝鮮に非核化を求めながら、対話も要求するという文大統領の「並行」政策では、どちらか一方の成果を阻害することになる。
文大統領はアメリカと韓国の対北朝鮮政策を擦り合わせるようトランプ大統領を説得したと述べた。しかし実際には、トランプ政権が対北朝鮮政策として採用する「最大レベルの圧力と介入 (maximum pressure and engagement)」に韓国の方が歩み寄った形だ。トランプ政権の「最大レベルの圧力と介入」政策は、北朝鮮を上手く丸め込んで核開発プログラムを白紙にさせるために、利用可能なあらゆる手段を講じることを前提としているようだ。米韓首脳会談を受けた共同声明では、新たな制裁措置の可能性も示唆しつつ北朝鮮への締め付けの強化に向け米韓が協力することを約束したと強調した。
しかし北朝鮮は、国連安全保障理事会の制裁措置、米韓合同軍事演習のどちらにも支持を表明する韓国との対話を拒否している。
文大統領は朝鮮半島内部の問題である南北関係と、核問題を切り離して考えられていないようだ。文氏は7月にベルリンで行ったスピーチで、ICBMの発射実験について北朝鮮は「残念かつ間違った決断」を下したと述べたものの、北朝鮮との対話を実現させ、和平条約の締結により朝鮮戦争を正式に終わらせる必要があると強調した。スピーチではさらに北朝鮮の核開発プログラムを朝鮮半島最大の課題として挙げた。
核問題の他にも朝鮮半島の南北関係に関連する問題は多数あるが、文大統領は核問題と南北関係に明確な繋がりを持たせることにより、事実上その他の問題を脇へ追いやってしまった。これは大きな間違いだ。
◆協力者としての立場
文氏は将来の非核化に向けた交渉を韓国が牽引すべきと確信しているらしい。だがこの考えは韓国が交渉の前線に立つキープレーヤーではないという簡単な事実を無視している。北朝鮮の核兵器の標的はアメリカなのだ。核問題はそもそもアメリカ政府と、仲介役を務める中国政府の問題である。
この構図が根本から変わるということはないだろう。そのため単純に考えても韓国政府が核問題をリードする必要はない。韓国が前に出すぎれば役割が重なってしまう以上に、逆効果を生むこともあり得る。つまり今どうしても必要なのは南北朝鮮間の関係性の再構築であり、核問題がその妨げとなるようなことがあってはならないのである。
南北関係と核問題のバランスは、文氏が大統領秘書室長を務めていた盧武鉉 (ノ・ムヒョン) 政権時代にはある程度上手く保たれていた。盧政権では核問題と南北関係は別々の問題として進行していた。当時の韓国と北朝鮮は比較的良好な関係性を保っており、韓国が非核化交渉に関わるのは6カ国協議の時だけだったが、それもファシリテーターを務めた程度である。
核問題をきっかけに南北関係が悪化するようなことがあれば必ず北朝鮮だけが得をする。韓国政府は過去の政権に混乱を招いた核問題の罠から抜け出し、そろそろ政策を正すべきだ。核問題をリードすることに拘らず、他国の仲介に頼ることも選択肢として考え得る。例えば中国は北朝鮮が核開発を凍結すれば、米韓の大規模共同軍事演習も凍結するというfreeze-for-freeze (凍結には凍結を) 協定を提案しており、検討する価値はあるだろう。
文大統領はこのような選択肢には見向きもせず、核問題と南北関係を切り離せないひとつの問題として扱っている。これでは極めて重要な好機を逃してしまう。北朝鮮が核開発という目標の達成に向けて自由に歩を進める一方、韓国は朝鮮半島における役割を自ら縮小しているのだ。
This article was originally published on The Conversation. Read the original article.
Translated by t.sato via Conyac