動き出すTPP11交渉 アメリカ抜きの11ヶ国でも日本に必須の理由

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 トランプ大統領誕生で実現しなかったTPPだが、アメリカ以外の11ヶ国は復活させるための検討を行うことで5月に合意している。TPPは経済のみならず、安全保障でも重要だという認識も高まっており、TPP11としての再出発に期待が寄せられている。

◆TPP11でも恩恵あり?将来にアメリカが参加なら効果大
 カナダのシンクタンク、Canada West Foundationの報告書は、アメリカ抜きでTPPを発効した場合、11ヶ国の輸出額は2.43%の増加となり(注:2017年の場合)、域内の実質GDPは0.074%押し上げられるとしている。アメリカ参加の場合、参加国の輸出の伸びは40%増と試算されていたため、スケールダウンは否めない。

 TPP11となった場合、もっとも大きな恩恵を受けるのはカナダとメキシコだとされる。カナダの場合、牛豚肉や野菜、果物などでアメリカとの競合がなくなることが大きく、輸出額は、アメリカ参加であれば約28億カナダドル(2500億円)だったのが、アメリカ抜きだと約34億カナダドル(3000億円)になると試算されている。当然のことながら、米市場へのアクセス改善で最大の受益者になると見られていた日本、ベトナムなどは、TPP11では最も利益減となるとされている。

 グローバル・トレード・レビュー誌(GTR)は、もともとの合意から見れば恩恵はわずかだが、先に11ヶ国で始動することで、次期政権のもとでのアメリカ参加の道を開いておくことができ、その場合は大きな恩恵が見込まれると説明している。

◆離脱は間違いだった。トランプ大統領に識者反論
 アメリカのTPP不参加についてはいまだに国内で是非を問う声が上がっている。フォーリン・ポリシー誌に寄稿した米シンクタンク、外交問題評議会のロバート・D・ブラックウィル氏とセオドラ・ラプリー氏は、トランプ大統領がこれまで上げたTPP不参加の理由には大きな誤認識があると述べ、TPP離脱は間違いだったと主張する。

 両氏は、TPPによってアメリカの雇用と富の他国への流出が加速するとトランプ大統領は述べたが、実際はTPPによってアメリカの年間実質所得は0.23~0.5%ほど緩やかに増加しただろうという調査機関の数字を紹介している。また、輸出主体の産業においては、TPPで雇用、賃金ともに増加するはずだったとし、必要なのは労働者がより収入の多い仕事に移るための援助やトレーニングを国として行うことで、TPPのキャンセルではないとしている。さらに、TPPではアメリカはほとんど譲歩する必要がなく参加国に市場改革を求めるもので、都合が悪いどころか有利な取り決めとなっていること、また、トランプ大統領が主張する2国間協定では、国ごとにルールが違うことで実際にビジネスをする側にはコスト高で非効率であることなどを上げ、トランプ大統領のTPP悪玉論に反論している。

 Canada West Foundationの報告書によれば、アメリカは、TPP発効で輸出額が約170億ドル(1.9兆円)増えるとされていたが、不参加になったことで約31億ドル(3500億円)の損失となる計算だという。

◆中国の圧力に対抗。参加国は安全保障上の結束を
 これまで台頭する中国とのパワーバランスを取るという意味で、アジア太平洋地域におけるアメリカの関与は重要だったというラジオ・ニュージーランド(RNZ)は、日本やニュージーランドがアメリカ抜きのTPP発効を目指す理由として、先行きが不透明な時代に安定を求めることを上げる。「日本政府はアメリカだけでなく、同じマインドを持つ民主的な海洋国家との結びつきを深めようとしている」という谷口智彦内閣官房参与の発言を引用し、南シナ海、東シナ海での安全保障問題が、日本にTPP11推進のリーダーシップを取らせていると指摘する。

 上述のブラックウィル、ラプリー両氏は、その覇権主義に反対する地域の国々に、ジオエコノミクス的な威圧をかける中国に対抗するためにもTPPは必要だとしており、もしアメリカが守ることができなければ、それらの国々は黙って中国の覇権的アジェンダに従うようになると述べる。両氏は、TPPはアメリカと同盟国、世界経済のためになるうえ、中国に対する防波堤の機能をも果たすと結論づけ、今アメリカがTPPに戻ることは決して遅くはないと主張している。

 TPP11に関する会合は、11月にベトナムで行われるAPECのミーティングの際に開かれる予定だ。アメリカ抜きでも参加国がまとまる意思を示すのか、またそうなればアメリカは考えを変えるのか。今後の展開に注目したい。

Text by 山川 真智子