EU、中国の人権侵害を批判できず 強まる影響力の前に口を閉ざす民主主義陣営
中国の人権侵害を批判する国連でのEU声明が、ギリシャの反対で初めて見送られた。声明発表にはEU加盟28ヶ国すべてが賛成する必要があり、声明をまとめられなかったことで、人権擁護を掲げ各国に言論の自由や死刑廃止を求めるEUには打撃となった。
ギリシャをはじめ、中国に経済援助を受ける国々にとって、中国批判は困難だ。また、貿易などでつながりを深めているEU自体も、関係悪化を恐れ批判には慎重な姿勢を取らざるを得ない。まさに金で影響力を買う中国の台頭が、民主主義を牽引する国々を悩ませている。
◆経済大国中国の影響力増大。EUも及び腰
ギリシャの外相は、声明は「非建設的な中国批判」として反対を表明した。中国は、ギリシャ、ハンガリー、クロアチア、ポルトガルなど、経済状況の厳しい欧州諸国に多額のインフラ投資をしている。特にギリシャの場合は、緊縮財政を国際債権団から求められていることから、中国の経済的支援は不可欠であるため、今回の声明阻止という行動につながったとウォール・ストリート・ジャーナル紙(WSJ)は指摘しており、貧しい国々への投資で、人権問題への批判封印を勝ち取ったという見方を示している。
ロイターは、今回の事件はEUと中国のぎこちない関係も強調してしまったと述べる。EUは、気候変動や保護貿易主義に関し、トランプ政権と戦うためのパートナーとして中国を歓迎している。しかし、ビジネスでの結びつきが強まるにつれ、中国政府の人権派弁護士や活動家に対する弾圧について、正々堂々と意見を述べにくくなっているとロイターは指摘している。
EUは1996年から中国との人権対話を行い、人権問題を改善するよう訴えているが、国際人権団体ヒューマン・ライツ・ウォッチ(HRW)によれば、年々対話自体が形骸化してきている。HRWを含む10の人権団体は、このまま意義のない低レベルな儀式に終わるのであれば、中国の人権問題が改善されるような明確な指標ができるまで交流は一時停止すべきだと訴えている。
◆市場をブロック。人権問題への経済的報復
すでに経済大国となった中国との関係において、人権問題がどれほどやっかいなものであるのかを示すのが、ウェブ誌『クオーツ』のノルウェー・サーモンに関する記事だ。国家権力の転覆を企てた罪で禁固11年の判決を受けた中国の人権活動家、劉暁波(リウ・シャオポー)氏に、ノルウェーのノーベル賞委員会が2010年の平和賞を贈ったことから、中国とノルウェーの関係が悪化し、ほぼ中国のサーモン市場を独占していたノルウェー・サーモンの中国への輸出量が急下降した。中国にとってサーモンの輸出を阻止することは、目に見える形での「ノーベル賞のリベンジ」として重要だったと指摘されている。
結局2016年12月に、ノルウェーの外相が中国を訪問し両国は和解。その後ノルウェーは中国との水産物における貿易協定を結び、2025年までに総額14億5000万ドル(約1600億円)のサーモン輸出を目指しているという。クオーツは、2015年にはノルウェー政府のメンバーは誰一人としてダライ・ラマと面会しなかったと指摘し、「チャイナ・フレンドリー」な努力が和解につながった、という専門家の意見を紹介している。また中国側は、ノルウェーは「2国間の互いの信頼が損なわれた理由について深く反省した」と上から目線だったという。
◆沈黙は中国をつけ上がらせるだけ。世界は声をあげるべき
騒動の原因となった劉氏は、末期がんと診断され、現在刑務所から釈放され病院で治療を受けている。劉氏と妻は北京の自宅に戻るか海外に行くことを望んでいるが、中国側はあくまでも病気による仮釈放としており、「解放なき『解放』」とする中国法の専門家のコメントをガーディアン紙の社説は掲載している。
同紙は、中国は劉氏だけでなく、彼を支持したノルウェーも見せしめにしたが、反発する代わりに多くの国が中国に屈しており、人権より貿易に重きが置かれていると嘆く。そのうえギリシャのように他を無言にさせる国まであり、このような臆病さは中国をつけ上がらせるだけで、そのツケは中国の弁護士、活動家、反体制派、そしてかれらの家族が払うことになるのだと断じる。劉氏が中国に課す唯一の脅威は恥だと述べる同紙は、アメリカ、ノルウェーのノーベル賞委員会会長、勇気ある中国の個人は、劉夫妻の解放を求めてきており、残る世界中の人々も、劉夫妻や同様の状況にある人々のために、中国に訴えるべきだとしている。