トランプ政権、初の「航行の自由作戦」 なぜ今実施しなければならなかったのか?
24日、米海軍の駆逐艦「デューイ」が南シナ海で中国が造成した人工島12カイリ内を航行した。トランプ政権としては初の「航行の自由作戦」で、国際法の遵守を求め、南沙諸島の軍事化を容認しないというメッセージを中国に発信したことになる。トランプ政権は、北朝鮮問題解決の協力を求めるため、これまで中国を刺激することを避けてきたと見られており、なぜ今「航行の自由作戦」を実施したのだろうか。
◆作戦再開。「無害通航」ではなく、領海自体を認めない意思表示
ロイターは、オバマ政権下での南沙諸島における「航行の自由作戦」は、「無害通航(沿岸国の平和、秩序、安全を害しないことを前提に、沿岸国に事前通告せずに沿岸国の領海を他国の船舶が通行すること)」であり、素早く停止せずに進むことにより、実質上領海と認める行為だったというアナリストの見方を紹介している。
今回、駆逐艦「デューイ」は南沙諸島のミスチーフ礁12カイリ内で、乗組員が船外に落ちた際の「救難訓練」を行っている。匿名を条件にロイターのインタビューに答えた関係者は、駆逐艦が「軍事演習」という通常のオペレーションをしたことで、人工島の有無にかかわらず、領海とは認められないことを示したと述べている。米シンクタンク、戦略国際問題研究所のグレッグ・ポリング氏によれば、中国が埋め立てを行う前は、ミスチーフ礁は満潮時に海面下にあったため、国際法においては12カイリ領海を有しないと解釈されている(ロイター)。
アジア海洋透明性イニシアチブによれば、中国が埋め立てた南沙諸島の島々では軍事施設がほぼ完成しており、ミスチーフ礁では戦闘機、ロケットランチャーなどの配備がいつでも可能だということだ。ロイターによれば、ベトナムの潜水部隊員を撃退するため、ファイアリー・クロス礁にはロケットランチャーが設置されたと中国軍事紙が報じている。
◆北朝鮮問題での遠慮は無用。中国に間違ったメッセージは送らない
ナショナル・インタレスト誌によれば、米海軍と太平洋軍は、「航行の自由作戦」を行うよう政府に要請してきたが断られており、トランプ大統領は北朝鮮問題での協力と引き換えに、中国の南シナ海における拡張主義的な活動を見逃そうとしているのではないかと懸念されてきた。
この考えに対し、「航行の自由作戦」再開前にフォーリン・アフェアーズに寄稿した新アメリカ安全保障センターのミラ・ラップ-ホッパー氏は、中国自体が朝鮮半島の安定化と非核化を強く望み、北朝鮮の劇的な崩壊を恐れているため、アメリカが南シナ海で配慮を見せなくても北朝鮮問題から手を引くことはないとして、「航行の自由作戦」再開が必要だと主張している。
さらに同氏は、共和党、民主党の7人の議員が5月10日に、トランプ大統領に「航行の自由作戦」の再開を求める書簡を送っており、さまざまな問題が山積みしているなか超党派のシニア議員たちがこのような行動を取ったのには充分な理由がある、と指摘している。
「航行の自由作戦」はこれまで中国だけでなく、世界の海へのアクセスを規制しようとするあらゆる国家に対して行われてきたと同氏は述べる。作戦自体は中国に人工島をあきらめさせることを目的にしておらず、軍事施設建設を止めさせることもできないが、「南シナ海は国際的な水路であり、そこで中国が嘘の主張をすることはできない」というメッセージを送るものであり、「航行の自由作戦」をしないということは中国の行いにゴーサインを出すのと同じである、と主張している。さらに、今行動を起こさないならば、日、豪、東南アジアの国々がアメリカはアジアから手を引くと受け取り、中国を地域で最も頼れる国と見なす考えが広まりかねないとしている。
一方ナショナル・インタレスト誌は、作戦再開が今になったのは、トランプ政権が政策ポジションをしっかり固めるまで挑発的行為と取られかねない行動を先送りにしていたため、という意見を紹介している。
◆中国猛反発。人工島は自衛のためとも
「航行の自由作戦」再開を受け、中国側はさっそく反発している。ロイターによれば、中国のミサイル護衛艦2隻が「デューイ」に海域から出るよう警告し、中国政府はアメリカに対し断固たる抗議を行った。
中国防衛部の報道官は、力を示して地域の軍事化を助長するアメリカの行いに断固反対すると発言した。中国外交部の報道官は、「自分の家のすぐ近くで、力をもって威嚇する者がいるなら、少なくともパチンコ(ゴム銃)ぐらいは用意してもいいのでは」と「航行の自由作戦」を批判し、人工島での軍事施設建設についても、主に自衛目的でありフェアで合法だと述べている(ナショナル・インタレスト誌)。