北朝鮮とトランプ米大統領による外交なしアジア戦略の危険性

 先週(注:本稿が発表されたのは2017年3月15日)行われた北朝鮮によるミサイル発射は、トランプ政権におけるアジア戦略が新たな世界大戦を引き起こす可能性を示唆する早期の警告である。

 今週のレックス・ティラーソン米国務長官による日中韓訪問が、今回の打ち上げの契機であったものの、トランプ氏にとっては北朝鮮による核ミサイルの活動はアジアの優先課題ではない。

 トランプ氏やスティーブン・バノン氏のような側近達にとっての最優先事項は経済である。トランプ氏とその陣営は、アジアにおける貿易を米国の富を枯渇させ国家の安全を脅かす不利益と見なしている。トランプ氏は米国とアジア主要経済圏の関わり方の再検討を主張している。

 どのような利益をもたらすかに関わらず、国家安全保障会議や国務省政策企画スタッフ、北京大学客員研究員としての経験からして、彼の主張はアジア米国政策の基盤としては危険な欠陥だと言える。今日のアジアは世界のどの地域よりも経済的に相互依存しており、朝鮮半島での攻撃的な姿勢に加え、東シナ海や南シナ海における領海問題等の安全上の課題も抱えている。

 米国とその同盟国が中国と連携してこれらの問題を解決するための多国間外交の手法は未だにない。

 地域の安全保障の課題が武力紛争に発展するリスクを高めているのである。このような紛争が世界規模で不利益をもたらすのを防ぐために、米国とアジアの主要国は効果的な地域安全保障の枠組みを構築する必要がある。トランプ氏の戦略はこの重大な責務を無視しているのである。

◆トランプ氏とアジア外交赤字

 北朝鮮の核弾道計画は、アジア地域の安全保障が確立されていないために生じる危険性を浮き彫りにしている。北朝鮮は自国の安全が危機的状況であると絶えず懸念しており、その結果として、北朝鮮が優位に立つよう米国とその同盟国を敬遠し核弾道技術開発措置講じるのである。北朝鮮の抑止力の追求は、従来の紛争を核戦争に発展させる危険性を高めるのである。

 トランプ氏は朝鮮半島における紛争予防を緊急課題とは考えておらず「過激なイスラム教」と違法移民を米国の直接的な脅威だと主張しているだけである。これは一見、アジア地域の紛争に直接的な危険を及ばさないように見えるのだが、北朝鮮の核武装ミサイルの追求は、むしろトランプ氏の真の目的達成のための有用な手段となり得るのである。

 北朝鮮の核弾道実験は、トランプ氏が選挙演説で大げさに主張していたところの米国と日本への安全保障の責務を示し、関係回復の機会を提供しているのである。彼はすでに直接ジェームズ・マティス国防長官にも指示を出している。トランプ氏は先週、北朝鮮の実弾頭を迎撃できるとされる終末高高度防衛ミサイル(THAAD)を韓国に配備した。

 トランプ氏の一連の動きは、日本韓国からの米国へのさらなる投資を求めていることの表れであり、通貨評価とよりバランスのとれた二国間取引についての理解も求めているのである。

 同盟国ではないが主要経済連携国である中国に関して、トランプ氏は、米国の軍事力やその他の強制的なを活用して、貿易通貨譲歩を勝ち取ることを目指している。

 トランプ氏は米国の地域軍事体制を拡大して中国への圧力を強化しようとしており、北朝鮮の武器実験が米国のこの姿勢を後押ししている。中国は既にアジアへのTHAADミサイル拡大が最終的に自国の防衛抑止を脅かすことを懸念している。

 しかしながら、トランプ氏の戦略は、北朝鮮の核弾道開発に伴う安全保障上の問題を解決するものではない。

◆北朝鮮問題の解決

 かつての米国政権が既に学んでいるとおり、北朝鮮の核弾道能力に対する軍事的予防策はない。 北朝鮮への攻撃は、北朝鮮従来の砲兵による韓国攻撃の引き金となるだけである。

 これは中国の問題でもなく、中国に解決を迫ることもできない。

 中国は北朝鮮の核弾道開発に不満を募らせているにもかかわらず、現在、韓国には3万人もの米軍兵士が配備されている。このような状況下で、中国が米国と同盟国である韓国の中国国境への効果的な拡大を受け入れるはずはない。数万人の米軍兵が中国との国境に配備される可能性を秘めているからである。したがって、たとえ米国に切望されても、中国が北朝鮮を崩壊に陥れるような形で北朝鮮に圧力をかけることは決してない。

 仮にトランプ氏が朝鮮半島の問題を解決したいとすれば、中国が先週提案した朝鮮半島の非核化と平和メカニズムの確立についてもっと追求するはずである。そして最初に米国が韓国との共同軍事演習を中止すれば北朝鮮も武器実験を中止するだろう。

 その後関係国はより包括的に交渉できるはずで、米国及び同盟国は核兵器のない朝鮮半島を追求するだろう。非核化は、北朝鮮と中国を地域的な「平和メカニズム」に取り込み、米国との平和条約に導くだろう。

 しかし、この二重軌道は、アジアの安全保障を米国協力に託すものである。そしてそれはトランプ氏の経済的な目標を達成するものではない。安定したアジアでは、トランプ氏は軍事力を利用して同盟国や中国から経済譲歩を引き出すことができなくなるのである。

 トランプ氏がアジア戦略の主要な軌道修正を示さない限り、北朝鮮は戦略的抑止力を維持し続けるであろう。そして従来の朝鮮半島紛争が核戦争に発展するリスクは引き続き拡張するのである。

 中国は、米国の挑発的な政策に意図的に反応している。 習近平国家主席は7月のG20首脳会合の前にトランプ氏と首脳会談を望んでいる。 中国の当局者やアナリストは、習首席が昨年秋の第19回党大会において米国との関係を比較的均等に保つことを希望しているとも述べている。 議会は習首席を2期目のトップリーダーとして承認するであろう。依然として米国の影響力のある世界的秩序の中で、中国が価値ある安定した立場を確立することを習首席の狙いである。

 一方で、中国はトランプ氏がアジアとの経済関係を再交渉するかどうか、特にこれが米国同盟国の被害になるかどうかに関しては無関心である。しかし、仮にトランプ氏が中国に対して強制的かつ攻撃的な地域軍事姿勢を構築し続ければ、何らかの対応をするはずである。

 中国は、トランプ氏の戦略を制約し弱体化させるために、自国のアジア米国同盟諸国との経済的・政治的関係を活用するであろう。最近弾劾された朴槿恵(パク・クネ)韓国大統領は、おそらく北朝鮮との関わりや多国間の地域安全保障アプローチを支持する漸進的勢力に取って代わられるはずである。これにより、中国は米国の THAAD配備を抑え、最終的には立場を逆転させる可能性さえある。

 総合的にトランプ氏のアジア戦略は、地域安全保障における中国と米国との協力を促進するものではなく、むしろ、確実に中国と米国のセキュリティ競争を激化させるであろう。

photo via flickr | IoSonoUnaFotoCamera

The Conversation
Author Flynt L. Leverett 
Professor of International Affairs and Asian Studies, Pennsylvania State University
This article was originally published on The Conversation. Read the original article.

Translated by ohihs via Conyac

Text by The Conversation