「植民地政策は現地にとって良かった」 英印間で認識に隔たり インド側には強い怒りも

 インドの政治家、シャシ・タルール氏がアルジャジーラに寄稿し、コルコタのヴィクトリア記念堂を英植民地時代の残虐行為を伝えるための博物館にするべきだと主張した。イギリスは征服と略奪の歴史を反省していないという同氏の意見に対して英国内にも賛否両論あり、植民地時代の支配者と被支配者の認識のギャップがいまだ埋まらないことを示している。

◆略奪と搾取の200年。インドをダメにしたのはイギリスか?
 インドの国会議員のタルール氏は、外交委員会の議長を務め、作家としても知られている。同氏は以前からイギリスによるインドの植民地支配に批判的で、2015年には英オックスフォード・ユニオンでの討論会で、イギリスは旧植民地に賠償すべきと主張した。ウェブ誌『Mashable』によれば、このときの同氏のスピーチはYouTubeで400万回視聴されている。討論会での主張をさらに広げて書いた同氏の著書『Era of Darkness(英版Inglorious Empire)』は英印両国でベストセラーとなった。

 同氏はアルジャジーラの記事で、イギリスに征服される前のインドは世界のGDPの27%を占める豊かな国であったが、その後の2世紀以上にわたる略奪と搾取によって、植民地支配終了時には世界で最も貧しく、病み、無教育な国に落ちぶれてしまった、と主張する。英支配のもと、多くの虐殺事件が起こり、イギリスのひどい政策によって不要な飢饉が引き起こされ3500万人が命を落とした。宗教や人種で被支配者を分けることで統治を容易にした「分割統治」政策は、イギリスがインド亜大陸から乱雑で悲劇的なBrexitをした1947年、インド・パキスタン分離独立というホラーで頂点に達した、とも述べている。

 また、驚くべきことに多くのインド人とイギリス人がいまだに人道に対する大英帝国の罪がどれほどのものだったのかを知らないままだ、とする同氏は、植民地時代の歴史的建造物であるヴィクトリア記念堂を英支配の真実を伝える博物館にすべきだと主張。そして、インドの子供達を教育し、イギリスからの観光客を開眼させるべきだと断じている。

◆勉強不足?イギリス人は、大英帝国の歴史に好意的
 2014年にイギリスの世論調査会社YouGovが行なった調査によれば、大英帝国はどちらかといえば誇るべきものと答えた人は59%、恥じるべきものと答えた人は19%だった。植民地政策で征服された国々の暮らし向きは全般として良くなったと答えたのは49%、悪くなったと答えたのは15%だった。多くのイギリス人が、植民地支配は各地に経済成長をもたらし、恩恵を与えたと考えていると見てよいだろう。

 しかし、デイリー・メールのインド版は、イギリスが残した議会制民主主義、鉄道、英語などはすべてイギリスにとって都合がよかったものばかりだとタルール氏が主張していることを紹介。また、昨年イギリスの国会議員のリアム・フォックス氏が「英国はEUにおいて、20世紀の歴史を葬る必要がない数少ない国の一つだ」とツイートしたことを上げ、大英帝国のインドでの行いについてイギリス人が十分に知らないことを裏付ける明らかな実例だ、と述べている。インデペンデント紙も、大英帝国についての詳細は、イギリスの学校では広く教えられておらず、歴史の授業は他の分野にフォーカスされがちだと述べ、国内の政治家からももっと帝国時代の歴史を教えるべきという意見が出ていたことを伝えている。

◆生まれる前の出来事への責任はどこまで?
 イギリスでも、政権によって、植民地政策への見方は分かれている。2006年に当時のブレア首相は、大英帝国が初期の奴隷貿易で果たした役割に関し「人道に対する罪」と述べ謝罪した。しかし2013年にインドを訪問したキャメロン前首相は、約400人のインド人が英帝国部隊によって殺害されたとされる、1919年のアムリットサル事件への謝罪を拒否している。このときキャメロン前首相は、植民地政策には長短があったと述べつつ、悪いことからは学び良いことは讃えるべきだとし、最終的にはイギリスの過去はインドの助けになったと主張している(インデペンデント紙)。

 イギリスの著名な歴史家、ウィリアム・ダーリンプル氏は、キャメロン首相は謝罪すべきだったという意見に対し、政治家が自らの間違いの謝罪をするならわかるが、生まれるよりずっと前に起きたことに対して謝ることは無意味だとし、そのような行為は純粋な悔恨というより、むしろ政治的方便ではないかと述べている(ガーディアン紙)。

Text by 山川 真智子