死後も自分らしく…アメリカで変化する埋葬方法 環境に配慮した「グリーン葬」も人気

 アメリカでは、亡くなった人を埋葬する場合、土葬が一般的だった。ところがここ十数年、火葬の割合が急激に増えているという。一番の理由は土葬にかかる費用が高すぎることだが、自分らしさを大切にしたい、自然環境や残された人々の気持ちにも配慮したい、という意識も影響しているようだ。伝統や習慣にとらわれたくないベビーブーマーたちが、従来の埋葬や葬儀のあり方を見直し始めている。

◆火葬派増加中。土葬は高くつく
 ブルームバーグによると、ここ150年間のアメリカの一般的な埋葬方法は、化学薬品で防腐処理を施した遺体を金属製の棺におさめ、それを地中深くに用意した棺を保護するための容器に葬るというものだ。それが近年火葬を行う割合が増えており、ワシントン・ポスト紙 (WP)によれば、2000年には全体の25%だった火葬が2015年にはほぼ49%に達したという。

 火葬が増えた最大の原因は、土葬の費用が高いことだ。ペンシルベニア州のローカルメディア『Trib Live』によれば、火葬のコストは、通常1000~2000ドル(約12~24万円)ほど。ところが土葬の場合は、棺と墓土地代、穴を掘る費用だけでも5000ドル(約60万円)かかる。これに通夜、祈祷、花代などの追加コストを含めると、簡素な最低限の葬式でも1万ドル(約120万円)に達してしまうという。

◆火葬後は散骨が人気。マナー違反も
 コスト以外に注目されるのが、火葬が持つ利便性と柔軟性だ。葬儀を数ヶ月遅らせたり、別の州で執り行うのも容易であり、散骨したり、自宅に置くことも可能だとTrib Liveは説明する。WPによれば、自宅のマントルピースに亡くなった家族の骨壺を置くのはよくあることで、火葬を選んだ家族の3分の1が、遺灰を散骨していると見られている。散骨場所は、故人が気に入っていたビーチやジェットコースターの上からなど様々で、中にはキリスト教の聖地、洋上の岩礁、雲の上や宇宙などへの散骨も業者を通じて行われているという。

 火葬にすれば、遺体は約1000度の高温で焼かれリン酸カルシウムとなり、無害であるため、行政側は国立公園、森林、その他の公共の場での散骨については、「Don’t-ask-don’t-tell (聞かない、教えない)」の態度で黙認しているとのことだ。私有地に関しては持ち主の許可を得ることとなっているが、野球のワールドシリーズの球場やニューヨークのメトロポリタンオペラのオーケストラ・ピットで散骨するなどの迷惑な事件が起きているらしい。もちろん、火葬にしても家族がお参りに行く場所がほしいという人も多く、墓の土地や納骨堂を有料で用意する墓地などもあるということだ(WP)。

◆驚きのサービスも登場。倫理観が問われる
 火葬した故人といつまでも一緒にいたいという人のためのサービスもある。ウェブメディア『Mashable』によれば、希望者は所定のキットに遺骨を入れて、このサービスを提供する会社に郵送する。会社は遺骨を粉状にして特殊な上薬を作り、それを塗って仕上げた陶磁器や装飾品を届けてくれるのだという。お値段はマグカップが199ドル(約2万4,000円)、ペンダントが189ドル(約2万3,000円)とお手頃だ。

 購入者からの評判は上々だが、遺灰を商品化するこのサービスには宗教的価値観、倫理観、死者へのリスペクトの点で批判もある、と考案者のジャスティン・クロウ氏は認めている。しかし、人々は愛した故人を思い出すための新たな方法を求めているとし、長い伝統にかわる新たな選択肢を与えるという意味で、自社のサービスは意義があると述べている。

◆人は死後自然に帰る。土葬もナチュラルに
 Trib Liveによれば、そもそもカトリック教会は伝統的土葬を奨励しており、時代の変化に合わせて火葬を容認しているが、散骨や遺骨を家に持ち帰ることには反対だという。しかし、宗教的理由以外にも、火葬ではなく、よりナチュラルな土葬を求めている人々もおり、環境に配慮して遺体を天然の防腐剤で処理し、微生物の作用で自然に分解される材料に包んで土中に埋葬する「グリーン埋葬(Green Burial)」の人気も高まっているという。2015年の調査では、40歳以上の成人の64%が、グリーン埋葬を考えてもよいと回答し、5年前に比べ20%以上増えている(ブルームバーグ)。

 人は死ねば皆消えていく存在だが、自分の望む形で自然に還りたいというのは理解できる。日本でも先祖代々の墓に入らず、樹木葬、自然葬などを選ぶ人も増えている。伝統にとらわれず、より個人の希望にあった埋葬の形が、世界的に増えていきそうだ。

Text by 山川 真智子