中国から英国1万2000キロ結ぶ貨物鉄道が開通 英中の「避難口」に? 日本への影響は?
世界最長規模の貨物鉄道が運行を開始した。「中欧班列」が2017年元日、中国の浙江省義烏市からイギリスのロンドンに向けて出発したのだ。衣類やカバンなどの雑貨を中国からヨーロッパへ運ぶこのルートは、「新シルクロード」と呼ばれている。
◆9ヶ国、15都市を結ぶ新シルクロード
中国最大の日用品卸売市場がある義烏市を出発したのは、車両34両に商品を満載した列車だ。カザフスタン、ロシア、ベラルーシ、ポーランド、ドイツ、ベルギー、フランスを通り、英仏海峡トンネルを抜けてイギリスに入り、終点のロンドンへと9カ国15都市を結ぶ。各国で線路幅が異なるため途中で列車を乗り換えつつ、全長12000キロメートル超を18日間かけて進むことになる。今月1日に出発した列車は、18日(現地時間)に東ロンドンのバーキングに到着する。
ガーディアン紙は、この列車が「21世紀の世界経済の門出を記念するものになる」としている。義烏市の貿易を研究してきたサセックス大学のマグナス・マーズデン教授は、この列車が運ぶものは大企業の製品ではなく小さな日用品なので、かつてのシルクロード同様に昔ながらの業者が貿易機会を得るチャンスになるだろうと同紙に述べている。
◆新シルクロードをめぐる英中の思惑
フォーブス誌(1月6日付)はこの列車が「単に中国とイギリスを物理的に繋ぐだけのものではない」とし、両国の投資パートナーシップの足場を固める基盤だと説明する。イギリスはリスボン条約50条を今年3月までに発動して欧州連合(EU)離脱の手続きを開始するとみられており、EUとの関係の先行きは不透明だ。そんなイギリスを待ち構えているのが中国だというのだ。習近平国家主席が2015年に初訪英し、当時キャメロン政権だったイギリスに多額の投資を約束したのは記憶に新しいだろう。昨年11月にメイ首相は「英中関係は今も黄金」と発言している。
一方フォーリン・ポリシー誌は、トランプ次期大統領が対中貿易に強硬姿勢を取る可能性を指摘し、米中の貿易関係が悪化した場合、新シルクロードが中国にとっての「避難口」になるとしている。アジアやロシア、ヨーロッパをつなぐこの新シルクロードは、習近平国家主席が2013年に発表した「一帯一路」政策の一環だ。前述のフォーブスによると、一帯一路周辺に広がる市場の規模は、60ヶ国、世界人口の60%、世界GDPの60%であり、この地域には世界のエネルギー資源75%が眠っているという。貿易高は10年間で2.2兆ドル(約249兆円)に達する可能性がある。
◆日本が期待できること
当然ながら、日本は義烏市・ロンドン間の外に位置するため、こうした経済効果から置いて行かれてしまうと考えられがちだ。しかし昨年12月28日にフォーブス誌が掲載した「2017年、新シルクロードから期待できる5つの大変化」という記事のなかでは、5つ目の変化として「中国の一帯一路と、ロシア・日本・インドの国際開発計画のシナジー効果」が挙げられている。
同誌によるとインドは、「アクト・イースト」や「コネクト・セントラル・アジア」と名付けた、アジアを重視する政策を推し進めている。ロシアもユーラシア経済連合に調印している。日本もジャパン・インフラストラクチャー・イニシアティブ株式会社を通じてアジアやヨーロッパなどでのインフラ整備を目指している。同誌はこれらが一見中国の一帯一路と競合するように見えるが、参加国が好むと好まざるとにかかわらず究極的には「同じプロジェクトの一部なのだ」と述べる。新シルクロードはハブをつなぎ合わせたネットワークなのだから、ユーラシア大陸の「点」をどの国が「線」につなぐにしても、結局そこに関わるすべての国がその線を活用することになるのだという。
現在は暗礁に乗り上げているものの、シベリア鉄道を北海道まで延長する構想も存在する。英中間を往復する21世紀のシルクロードが、日本につながる日がいつかは来るかもしれない。