中国、抗日戦争14年間に教科書修正 海外から“歴史改ざん”の指摘

 中国教育省は、2017年春学期(2月開始)より、現在中国の教科書で使われている「日本の侵略に対する中国人民の8年間の抗戦」という表現を、「14年間の抗戦」に改めると発表した。一般的には、日中戦争は1937年の「盧溝橋事件」からとされているが、今回の措置は始まりを1931年の「柳条湖事件」まで6年も遡らせており、英米メディアからも歴史の書き換えではないかと疑問の声が上がっている。

◆抗日戦争の解釈に変更。中国歴史界ではコンセンサス?
 日中戦争は、中国にとっては抗日戦争であり、新華社によれば、これまではフルスケールで侵略が拡大した1937年7月の「盧溝橋事件」が始まりと中国の教科書には記されている。ところが、今回の新解釈では、ファシストの力と戦った初めての国である中国の苦しみは、1931年9月の「柳条湖事件」から始まったとされている。この事件は、日本軍が奉天(現在の瀋陽)の鉄道を爆破し、中国軍が工作を図ったと非難して、これを口実に攻撃を開始したもので、満州事変の発端とされている。

 新華社によれば、中国社会科学院の研究機関によるリサーチでは、1931年から1933年の間に30万人の中国兵が日本軍と交戦しており、「抗日14年」は中国の歴史家の間では一致した見方だということだ。また、一部の地域の参考書では、以前から「抗日14年」と記載されているという。ロイターは、小中学校、高校、大学のすべてのクラスの教科書と授業は歴史専門家の考えに合わせて変更される、という人民日報が中国のメッセージアプリ「微信」に出した発表を紹介している。

◆目的は愛国教育、共産党支持の拡大
 ニューヨーク・タイムズ紙(NYT)は、「抗日8年」は、中国の児童、学生の心に浸透している表現だと説明。ウェブ誌『クウォーツ』も、「抗日8年」は中国の学生の頭に叩き込まれてきた用語だと指摘する。この固定された認識を覆す抗日の6年延長の理由について中国教育省は、愛国教育を促進し、第二次大戦につながる日本のファシズムへの抵抗における中国共産党の「核心的役割」を強調するため、と説明しているが(NYT)、両メディアは、今回の措置が中国政府による意図的な歴史の改ざんであると見ている。

 クウォーツは、「柳条湖事件」が日本の中国侵略の第一歩ではあったが、その時期共産党は国民党と内戦しており、本質的に中国側の抵抗はなかったと述べる。NYTは、1931年から1937年は、国民党が抗日の努力と停戦交渉を行っていたとし、共産党が日本と戦ったのは、国民党と協力関係を結んだ後の1937年からだと指摘している。

 日本に勝利したのは自分たちのおかげという共産党の説明にも、クウォーツは疑問を呈している。歴史家、ラナ・ミッター氏によれば、訓練が行き届き、装備も上だった日本軍相手に野戦を挑んだのは国民党で、共産党は散発的なゲリラ戦以外はほとんど日本軍と戦わなかったとのことだ。

 中国の研究者や国営メディアは、東北抗日聯軍という共産党員を多く抱えた小さなゲリラ組織の存在をもって、早ければ1931年には共産党が日本と交戦していた証拠としているが、当時の共産党の主要軍は中国南東部を拠点としており、その説明には無理があるとクウォーツは見ている。その後の長征(1934年から1936年に、国民党に敗れた共産党が行なった江西省瑞金から陝西省延安までの1万2500キロの移動)の道のりでも、一度も日本軍と直接の戦いはなかったとも述べ、その間の抗日への貢献が薄かったことも指摘している。

◆歴史は書き換え可能? 対日姿勢強硬化も
 NYTは、「習政権には歴史教育を通じ、対日姿勢を一段と強める狙いがありそうだ」という産経新聞の上海特派員の言葉を引用し、今回の改訂は日本を怒らせるだろうと述べる。過去には日本の教科書改訂を巡って、戦時の残虐行為を薄めようとしているとし、歴史の歪曲だとして中国が大きく反発することがあっただけに、確かに日本人としては納得しがたい話だ。

 NYTによれば、中国では政府の判断に賛成する市民も多いが、SNSでは、歴史教育の政治利用だと批判的な声も上がっているという。歴史の事実は年月が経過するほど検証が難しくなるだけに、今後も同様の改訂が行われるかもしれない。

Text by 山川真智子

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