米国、「1年以内に男性同士で性交渉した人」は献血禁止 時代遅れの制限に批判集まる

 12日、米国フロリダ州オーランドのナイトクラブで史上最悪の銃乱射事件が発生。49名が死亡、53名が負傷した。このナイトクラブは、日頃から多くのLGBTの人々の憩いの場となっていたいわゆる“ゲイバー”。創設者がエイズで亡くなった弟を偲ぶために作った店だった。

 事件を起こしたオマル・マティーン容疑者(すでに警察特殊部隊により射殺)の父親によると、同容疑者は生前に「男性同士のキスシーンを目撃し激昂していた」という。この事件はいわゆる“性的少数者に対するヘイトクライム”だとの見方も強い。

 さらにこの事件後問題になったのは、“LGBT先進国”米国にはいまだに“同性愛者による献血規制”が残っているということだ。乱射事件後、オーランドでは多くの地元住民が犠牲者のために献血の列に並んだが、米食品医薬品局(FDA)が定めているこの規制のせいで、LGBTの人々は愛する家族・恋人のために献血することが許されなかった。

◆HIV/AIDSがまだ“原因不明の不治の病”だった80年代前半に作られた規則
 FDAのこの規則は、HIV/AIDSが社会問題になりはじめた1983年に制定。当初は同性愛者からの献血を全面的に禁止していたが、2015年12月に“一部禁止”に改正された。FDAのウェブサイト上の“献血禁止リスト”には、薬物・タトゥー・HIV感染者等と並んで「過去12ヶ月以内に男性同士で性交渉した人」「過去12ヶ月以内に男性同士で性交渉した男性と過去12ヶ月以内に性交渉した女性」という条件が記載されている。

 80年代前半は、HIV/AIDSについての研究がまだ十分に進んでおらず“原因不明の恐ろしい不治の病”とされ、人々はパニック状態に陥っていた。その頃の不確かな知識に基づき制定された時代遅れの規則が残ったままになっていたのだが、今回の事件を受けてクローズアップされることとなった。

◆米国医師会は「差別的だ」として2013年に規制撤廃を訴えていた
 英ガーディアン紙に寄稿したジャーナリストのジョン・ブラマー氏は、昨年末の改正について次のように指摘している。「(規則改正は)ゲイの男性による献血の全面的禁止を終わらせるものとして発表された。しかし、完全にひとりのパートナーのみとの関係を1年間にわたって続けているゲイ男性をも献血から除外することを意味する」

 同氏によると、米国医師会(AMA)はすでに2013年に、「このような規制は差別的であり確固たる科学的根拠がない」として撤廃を訴えていたという。「上記のような事実があるにもかかわらず、そして全米の専門家らが規制撤廃を呼びかけているにもかかわらず、ホモフォビア(同性愛に対する嫌悪・差別)とゲイ・パニックは根強くはびこっている」

 英デイリーメール紙では、FDAの規制に対する批判的な意見を紹介。ライターのカリーナ・マッケンジー氏がツイッターに投稿した「アサルトウエポン(対人殺傷用銃)や大量殺戮用に造られた装置の購入は合法で、ゲイの男性が友人の命を救うために献血するのは違法だなんて」等、多くの著名人によるツイートを引用して紹介した。

 米地方紙「アトランタ・ジャーナル・コンスティテューション」も、規則制定の経緯について説明した後、「規制は緩和されたものの、LGBTコミュニティに属する人々の多くは、いまだ献血方法がないままの状態」だと伝えた。

 米ワシントンポスト紙は、事件が起こったフロリダ州はルイジアナ州に次いでHIV陽性の人数が最も多いというアメリカ疾病管理予防センター(CDC)のデータを紹介した後、「今日の検査では、ウイルス感染後すぐに判定できる。この事実に基づき、待機期間は30日以内にすべき、というのが規制に反対している人々の主張だ」と説明した。

◆「血液バンクが一時的にこの規制を緩和した」というデマも流れ、混乱を極めた
 フロリダの血液バンク『One Blood』が事件を受けて一時的にこの規制を緩和した、というデマも流れ混乱していたが、その後One Bloodが公式ツイッターで否定した。事件後、『One Blood』は公式ウェブサイト上で「フロリダ州オーランドの乱射事件を受けて、Oネガティブ、Oポジティブ、ABの 血漿ドナーを緊急で必要としています」と呼びかけた。これらの血液型に該当しているにもかかわらず、事件に巻き込まれた家族や友人、恋人のために献血できなかったLGBTの人々は、どれほどやるせない気持ちだったことだろう。

 このFDAの規制は、社会全体に根強いLGBT差別があることを象徴するものだ。一人ひとりが積極的に正しい知識を得ようと努力することが、差別をなくすことに繋がるのかもしれない。

Text by 月野恭子