中国のネット検閲システムは有名無実!? 3割がVPNで回避、政府も黙認?
中国のインターネットには大きな壁が立ちはだかっている。その壁のために、中国のネットユーザーはGoogle、Facebook、Twitterなどの海外サイトを利用することができない。自国の歴史や、現在の出来事について、正しい情報を得ることができない。政治的な発言も制限される。そして習政権は、ネットをますます厳しい統制下に置こうとしている。それでも中国のネットユーザーは、世界につながるルートをどうにか持っているようだ。
◆中国共産党に都合の悪い情報はシャットアウト
中国のネット検閲は悪名が高い。ブルームバーグは、中国は、中国共産党の方針への異議と、党が危険とみなす情報を抑圧するために、世界で最も徹底的なインターネット検閲制度の1つを用いていると語る。海外サイトへのアクセスが遮断されるほか、ソーシャルメディアの投稿が削除される、また、検索語句がブロックされることがある、としている。最近では「パナマ文書」に関する情報が検閲対象となった。
このネット検閲システムは通称「防火長城(グレート・ファイアウオール)」。ファイアウオール(防火壁)と万里の長城(グレート・ウオール)を掛け合わせている。フィナンシャル・タイムズ紙(FT)によると2003年から運用されているという。ソウルデジタル大学中国学科のイ・ミンジャ教授は中央日報で、ネット検閲に携わっている人員について、サイバー警察だけで3万人、インターネット管理人員が30万人に達するという噂があると述べている。
この防火長城は中国のネットユーザーには大変評判が悪い。それもそのはず、これのせいで、Google、Facebook、Twitter、YouTube、一部ニュースサイトなど、さまざまなウェブサイトやサービスが利用できないからだ(どのサイトがブロックされているかは「GreatFire.org」というサイトで確認できる)。
この防火長城の開発で中心的役割を果たし、「防火壁の父」と呼ばれる方浜興氏が先日、中国の大学での特別講義中に、韓国のウェブサイトにアクセスしようとして、自ら防火長城にブロックされるという出来事があった。この皮肉な事態に、中国のソーシャルメディアは大いに沸いたようだ。TIME誌によると、方氏は中国ではいささか嫌われ者になっており、2011年には、怒ったブロガーによって卵と靴を投げつけられたことさえあるという。
◆VPNを利用して海外サイトにアクセス
この話にはさらに落ちがあり、FTによると、方氏はその後、学生たちに仮想プライベートネットワーク(VPN)を使用して防火長城を迂回(うかい)する方法を平然と教えてみせたとのことである。
アクセス制限を迂回するためにVPNを経由するという方法は、TIME誌によれば、多くの中国人が使用しているものだ。WIRED(UK版)が統計ポータルサイトStatistaのデータとして伝えるところによると、昨年10~12月、中国のネットユーザーの29%がVPNを使用したそうである。なお、中国ネットワークインフォメーションセンターによると、中国のネットユーザー数は昨年末時点で6億8800万人だった。
TIME誌によると、個人ユーザーは政府機関に未登録の商用VPNサービスを利用するが、これらのサービスは公式には禁止されているという。とはいえ、これまでに未登録VPNの利用で起訴された人はいないそうだ。
FTによると、中国の官僚の間でも、VPNを使用して海外サイトのアクセス制限を迂回する方法は広く普及している。世界全体で何が起こっているかを知る必要のある中国官僚にとって、ブロックされているサイトにアクセスするために、VPNサービスやその他の回避法は非常に需要が高い、と大勢の元中国官僚が内密に語っているとのことだ(ただし、そこで使用されているVPNサービスはおそらく公的なものだろう)。
◆実は政府があえて黙認している?
このVPNによる防火長城の回避法は、常に使えるものではないらしい。先月北京で行われた全国人民代表大会のような、非常にデリケートな時期には、VPNはたいてい機能を停止する、とTIME誌は伝える。
デリケートな時期には当局がVPNアクセスをブロックできるということは、ではなぜ常にブロックしていないのか、という疑問を当然生じさせると同誌は指摘する。これについて、北京のIT調査会社マーブリッジ・コンサルティングの設立者マーク・ナトキン氏は、「政府は、企業、大学、研究者には中国国外の情報にアクセスする必要があり、もしそれ(VPN)をブロックすれば、発展を妨害し、強い反感を生むだけだと承知している」と語っている。必要性が分かっているから、あえて目こぼししている、という見解だ。
そもそもVPNを使用しなければならないという状況に憤っている人もいる。中国のあるインターネット企業の設立者は、「個人にとっては、防火長城を迂回するためにVPNを使用することは、ネットワーク税を払うようなものだ」「企業にとっては、防火長城を迂回しなければならないことが競争力に悪影響を与えており、リソースを空費している」、とウォール・ストリート・ジャーナル紙(WSJ)に語っている。
だがそれでも、現状、VPNは中国のネットユーザーが世界を知る窓になっていると言えるだろう。中国国民が、国際社会の見方や自国の実情について知ることができるよう、この窓が開き続けていることが期待される。
◆習政権はネットの統制をさらに強めようとしている
気がかりなのは、習近平国家主席の下、中国政府がネットの統制を強化していることである。3年前の習主席の就任以来、政府はますます規制を強めている、とブルームバーグは語る。例えば、目下、中国当局は、自国内でアクセス可能なドメインについては、政府認可のドメイン名登録機関が管理するものでなければならない、という趣旨の条項を含む規制法案の検討を進めている。FTの他記事によると、GreatFire.orgのチャーリー・スミス氏は、規制案の文言は意図的に曖昧にされているように見える、と語っている。
専門家らはこの条項に危機感を抱いている。条文の取り方によっては、海外サイトへのアクセスに一律に制限をかけることが可能になるとも取れるからだ。当局はそのような意図を否定しているが、WSJによると、2012年の習主席の就任以来、インターネットの統制がますますきつくなってきた状況を考えると、これは信じがたい、と多くの人が感じているという。
香港中文大学ジャーナリズム・コミュニケーション学院のLokman Tsui助教授は、この規制がもし採用されれば、特定のサイトをブラックリストに入れるかわりに、政府がホワイトリストに載せたウェブサイトへのアクセスだけを容認するということになる、とブルームバーグに語っている。