オランダで画期的な「中学入試センター試験」実施へ PC、タブレットでOK、問題も個人別

 毎年、春を迎える季節になるとオランダでは、小学校8年生(日本の6年生に相当)を対象とした「中学入試センター試験」が実施される。「えっ、小学校卒業時なのにセンター試験を受けるの?」と、不思議に思う方もいるかもしれない。

 これはCito(シト)と呼ばれる文部省認定全国共通テストで、日本でいうところの大学センター試験とほぼ同じコンセプトで実施されるものだ。テスト科目は算数、国語、そして地理と理科をミックスした「一般教養」の3科目。このシト共通テストの結果が、志望校入学の是非を大きく左右する。志望校入学に当たっては、小学校時代の学業成績すべてが加味されると一般的には言われているものの、このシト共通テストの成績が最重要であることに間違いはない。

◆タブレットやPCを使って解答
 小学校8年生を持つ親たちの話題の中心は、シト共通テストに尽きるが、今年は殊にこの傾向が強い。なぜかというと、このテストに大幅な改革がなされたからで、なんと今年からテストが完全デジタル化されたのである。

 テストの受け方は、こうだ。生徒たちはまず、コンピューターかタブレットか、自分の好きなほうを選ぶ。そして、担任から個人ログ・ナンバーをもらってログインし、テスト画面を開いて問題を解いていくという仕組みだ。

 テスト内容・構成にも変革がみられた。生徒全員が同じ問題を解くのではなく、生徒ひとりひとりの能力に合わせた問題が、自動的にコンピューターによって提出される仕組みになっているのだ。つまり、生徒ひとりひとりが無理なく満点に近いスコアが取れるよう、配慮されているといえよう。これによって、勉強が苦手な子どもは難しい問題を解く必要がなくなるため、ストレスも減るだろう。普段成績が良い子どもでも、「難しい問題が出て、解けなかったらどうしよう?」とか、「間違えたらどうしよう?」と無駄に悩む必要がなく、余裕を持って本領を発揮できるのではないだろうか。

◆ストレスを減らすために
 本人の能力に応じた問題を解かせることは、各子どもが持つ真の学力を確実に判断するための好材料になる、とある教師はいう。「同じ内容のテストを一斉に行えば、頭脳明晰な子どもは、もちろん好スコアを取得するだろう。しかし、そうでない子どもは乏しいスコアしか取れず、このギャップを感じて子どもたちはストレスを感じることになる。しかし、自分の能力に合った問題なら、たとえ勉強が苦手であっても、それなりに高得点が取得できるわけで、子どもにとっても自信につながる」。

 さらにこの新しいテストには、暗記や知識だけでは対応できないよう、ひとひねりされた問題が厳選されているそうだ。これによって、子どもたちが持てる能力をどのくらい臨機応変に駆使できるかの判断材料にもなるという。たとえば、「極東地域にある島国で、国民は非常に勤勉と名高い。ユネスコの無形文化遺産に登録された「和食」のひとつに寿司がある。さて、この島国にもっとも近い距離にある半島をなんと呼ぶか?」といった風に、ある意味で読解力が問われるともいえそうだ。また、ひとりひとりテスト内容が違うため、うかつにカンニングができないことも、新しいテストのメリットとされている。

◆小学校卒業時で「将来が見える」
 オランダの子どもたちは、小学校卒業時にこれまでの学業成績に従って、将来の青写真を描かなくてはならない。成績優秀な子どもは大学進学コース、平均的な成績を取得している子どもは高等学校進学・就職コース、そして促されないと勉強をしたがらず、成績が振るわない子どもは職業訓練コースへと、3つのカテゴリーに振り分けられる。そして能力に見合った中学へと進学するわけだ。もちろん、中学進学後に大学進学コースを目指して勉学に励むようになる子どももおり、良い成績を残せば中途からコースを変更することも可能だ。しかし、ベテラン教師にいわせれば、小学校卒業時で既に「将来は、ほぼ決まっている」とのこと。子どもが先天的に持つ学力は12歳時で明確化される、ということになるのだろう。

 さて、この新テスト、いよいよ今月20日から(全国共通)で3日間実施される。果たして、どのような結果が出るのか。教育者も保護者も、そして子どもたちも含め、その実施と効果のほどに期待がかかる。

Text by カオル イナバ