豚肉ランチを義務付ける町も…難民の財産没収などデンマークで反移民政策が通る背景とは
北欧の高福祉国として知られるデンマークだが、当局が難民から金品を徴収することを許す法案が可決され、国際社会から批判を浴びている。実はこの法案を強力に後押ししたのは、与党勢力で最大政党の、反移民を掲げる国民党(DPP)だ。大量の難民の流入による混乱に乗じ、DPPがその愛国主義的主張を強めている。
◆国際的な批判が噴出も、政府は正しさを主張
26日、難民申請をした者に1万クローネ(約17万円)を超える現金や所持品がある場合、徴収して難民の保護費用に充てるという法案が、デンマークで可決された。これを受けて、国連、世界各地の人権団体やメディアが、一斉に批判のコメントを出している。
ワシントン・ポスト紙(WP)によれば、デンマーク政府は、この法案可決は正しいもので難民にかかる費用の助けとなる、と説明。同紙の取材に対し、「時計や携帯など、普通の生活水準維持に必要なものは保有可能」であり、「プライベートな思い出の品であれば、相当な価値のある物でない限り、原則徴集されることはない」としている。ルッケ・ラスムセン首相も、法案は同国の歴史の中で「最も誤解されている法律」だと、批判を抑えるのに必死だ。
◆反移民政党の台頭
AFPは、難民からの金品徴集以外にも、家族の呼び寄せが可能になるまでの期間を遅らせるなど、難民申請を思いとどまらせるための改正を議会が行なったと指摘し、その背後にあるのが、反移民政党であるDPPだと述べる。
DPPは、1995年、「デンマークの伝統を維持する」ことを掲げ結党。昨年の総選挙でデンマーク最大の右翼政党となり、議会では第2党に躍進を遂げた。一方、ラスムセン首相のヴェンスタ(自由党)は、少数与党であり、閣外協力をするDPPの支持が欠かせない。ブルームバーグは、DPPが優位な立場を利用し、難民へのルールを厳しくするよう政府に働きかけたことが、人権団体から厳しい批判を浴びていると述べている。
◆文化戦争に政治的意図あり?
右派の主張は、地方にも影響している。ニューヨーク・タイムズ紙(NYT)は、DPPにバックアップされた議案が小さなデンマークの町で可決され、「ミートボール戦争」と呼ばれ論争になっていると報じている。
人口6万人のラナースの議会は、伝統の食材である豚肉を使ったミートボールやローストポークなどの料理を、公営の保育園、幼稚園などの昼食メニューとして提供することを定めた。移民擁護派は、イスラム教徒に汚名を着せるため、存在しなかった問題を効果的に作り出したと批判。人々を二分し、単にイスラム教徒を標的にするための口実だと述べる(NYT)。
これに対し議案の賛同者は、豚肉のような伝統的デンマーク食を提供することは、国民としての自己認識を維持するのに必要不可欠とし、信条や宗教に反し誰かに無理やり食べさせることを目的としたのではないと主張している(NYT)。
NYTは、議案の成立を後押ししたDPPの広報担当、マーティン・ヘンリクセン氏が、イスラムからの脅威に直面し、デンマークの文化を守ることは必要だとフェイスブック上で述べていたと指摘。議案が政治的に動機づけられたものだったことは明らかだとする声を紹介し、豚肉が移民問題において欧州で展開する文化戦争の最新兵器になっていると皮肉っている。
◆変貌に驚きも
最新の世論調査では、ヴェンスタ、DPPともに支持率は落ちており、有権者の中にも反動が出ているものの、第二次世界大戦中、多くのユダヤ人救出に力を貸したデンマークの現在の難民への対応は、人々を驚かせているとブルームバーグはいう。
大量の難民流入がもたらした右傾化のトレンドは、欧州各地で見られるだけに、デンマークでも、しばらくその傾向は続きそうだ。