東シナ海:“中国は一歩手前の状況を作り出そうとしている”米識者が警鐘 その狙いとは?

「南シナ海」の次は「東シナ海」か――。複数の米識者が、アジア太平洋地域で海洋支配力を強める中国の「次の一手」は、尖閣諸島がある東シナ海だと警鐘を鳴らしている。中国は、尖閣諸島の接続水域に初めて重武装の巡洋艦クラスの“軍艦”を送り込むなど、「質」と「量」の両面で日本に対する示威行動を強めている。これに対し、「武力衝突の可能性はますます高まっている」(米ハドソン研究所上席研究員、アーサー・ハーマン氏ら)、「日本は無人偵察機やオスプレイの配備を急がねばならない」(米イーストウエスト研究所東アジア研究員、ジョナサン・バークシャー・ミラー氏)といった危機感に満ちたコメントが目立ち始めている。外務省関係者も、英フィナンシャル・タイムズ紙(FT)に対し、「東シナ海情勢は悪化している」とコメントし、明確に危機感を抱いているようだ。

◆日本の「しきしま」を上回る中国“モンスター巡視船”の配備が間近か
 中国は昨年来、これまで以上に尖閣諸島周辺海域での示威的な行動を強めている。日本の海上保安庁に当たる中国海警局の艦船の侵入回数や、中国国営企業とのつながりが指摘されるガス田調査船の数が、目立って増加傾向にある。その中でも、特に日本政府関係者らに衝撃を与えたのが、12月22日と26日に中国船4隻が尖閣諸島から24カイリ以内の「接続水域」に侵入した事件だ。このうちの1隻が、37mm機関砲4門を装備した事実上の軍艦だったことが波紋を呼んでいるのだ。武装した船が尖閣周辺で確認されたのはこれが初めてだった。

 この『海警31239』は、海軍の巡洋艦を改装した巡視船と見られる。イーストウエスト研究所のミラー氏も、『Nikkei Asian Review』に寄稿した『東シナ海は日本の安全保障の最大の脅威だ』と題したピニオン記事でこの件について、「中国がこの海域に武装船を送ったことにより、争いは相当に高まるだろう」と警告している。また、中国は2隻の1万トン級の巨大巡視船の配備を進めており、その1隻『海警2901』が進水間近と見られている。ネット上に投稿された上海の造船所に停泊している画像などによれば、同艦は37mm機関砲2基、対空用近接防衛システム2基、大型ヘリコプター2機を搭載。現役の巡視船で世界最大の海上保安庁の『しきしま』(7175総トン)を上回る“モンスター巡視船”だ。

 FTは、12月23日から2日半にわたって、中国の巡視船が東シナ海上空に中国が一方的に設定した防空識別圏(ADIZ)に沿って航行した件にも注目している。同紙は「この行動が意味することの一つは、中国はADIZの監視と支配力を高めようとしているということだ」と記す。また、日本の外務省関係者はFTに、「我々が恐れているのは、同じルートを軍艦がたどることだ」と危機感を表している。

◆日米分断を狙って意図的に「危機」を作り出す作戦か
 米ハドソン研究所上席研究員、アーサー・ハーマン氏(マッカーサー研究書『ダグラス・マッカーサー:米国の戦士』の著者』)と同研究所シニアバイスプレジデントのルイス・リビー氏(元ジョージ・W・ブッシュ政権大統領補佐官)は、最新の東シナ海情勢を分析した共著のオピニオン記事をWSJに寄稿している。両氏は、中国の海洋支配の「次の一手」の焦点は、東シナ海だと見ている。

 ハーマン氏とリビー氏は、「中国は国際社会の注意をある方向に向けさせながら、もう一方で策略を進めるのが得意だ」と指摘する。世界の注目が南シナ海に集まっている隙に、東シナ海の支配力を一気に強めようと目論んでいるというわけだ。さらに両氏は、尖閣問題を解決するために、中国が意図的に「危機」を作り出す可能性を挙げる。「戦闘の一歩手前まで迫る対立を作り出せれば、日本側は、特に米国の軍事支援に頼ることができないと感じれば、すぐに後退して外交手段で解決を探ろうとするだろうと中国側は踏んでいる」のだという。国内の経済危機が叫ばれる中、人民の不満を外に向けさせるためにも、中国がギャンブルに出る可能性は捨てきれないという見立てだ。

 また、中国は、アメリカのオバマ大統領が大統領選を前に中国との衝突に向かう可能性は極めて低いと見ている節があるという。一方、両氏は「日本は米国との同盟に確信を持っている」と指摘。そのうえで、中国の真の狙いは「尖閣」を刺激することにより、日米の認識のズレにつけ込み、同盟関係に亀裂を入れることだと見ている。「中国にとって、アジアにおける米国の砦を打ち破ることは、原油を発掘するのと同じくらい大きな価値を持っている」と記事は結ばれている。

◆「韓国との関係改善を利用して中国を孤立させるべき」
『Nikkei Asian Review』のミラー氏のオピニオンは、こうした中国の動きに対抗するために日本が取るべき対応を4つ挙げている。第1に、2014年11月の日中合意に基づき、尖閣問題に関わる危機管理メカニズムの導入を早急に進めること。そして、いまだ「グレーゾーン」になっている集団的自衛権の行使をはっきりと容認することだという。これは、裏を返せば、ハーマン氏らが指摘する「日米同盟のギャップ」に付け入る中国の策略にはまってはいけない、ということでもある。

 中国は、“モンスター巡視船”の配備だけでなく、海軍力の中心を東シナ海方面に移動させているとミラー氏は指摘する。これに対抗するために同氏が必要事項に挙げているのは、自衛隊が進めている「グローバルホーク無人偵察機」「水陸両用車両」「オスプレイ輸送機」などの配備の早期実現と、初期対応を迫られる海上保安庁の予算を大幅に増額することだ。

 そして、ユニークなのが、「韓国との関係改善を利用する」という戦略だ。ミラー氏は、先月の電撃的な慰安婦問題をめぐる合意によって日韓関係が改善に向かっている今が、「反日」で結びつく中韓を分断するチャンスだと見ているようだ。同氏は「前進している韓国との関係を利用して、中国に東シナ海の安定を乱すような行動を慎むよう圧力をかけるべきだ」としたうえで、「韓国との関係改善は東シナ海問題に直接関係はしないが、(中韓を分断すれば)海洋支配に攻撃的な姿勢を撮り続ける中国をさらに孤立させるだろう」と書いている。

 いずれにせよ、南シナ海問題を「対岸の火事」と見ていたら、痛い目に合うことだけは間違いなさそうだ。

Text by 内村 浩介