予想を超えた世界の貧富の格差 “富豪、多国籍企業の税逃れを止めなければ…”国際NGO

 2015年、世界の上位1%の富裕層が、残り99%全員分を合わせたよりも多くの富を所有していた。言い換えれば、世界の富の半分以上をわずか1%の人たちが保有していた。世界の貧困問題に取り組む国際組織オックスファムは、18日に発表した報告書「1%のための経済」の中でこのような推計を明らかにした。オックスファムは世界のリーダーらに、増大する経済格差の問題に取り組むよう訴えている。

◆世界で最も裕福な62人の総資産が、貧しい36億人分に相当
 オックスファムは、世界の経済格差の現状をさらに鮮鋭に描き出す推計を報告書で示している。世界で最も裕福な62人だけで、その持てる富は、世界の貧しいほうの36億人の富の合計と同規模だというのだ。36億人というのは世界人口の半数である。

 オックスファムは2014年から、毎年この時期、経済格差に関する同様の報告書を発表している。スイスのダボスで世界経済フォーラム(WEF)の年次総会、通称ダボス会議が開催されるのに合わせてのことだ。今年のダボス会議は20日から23日まで行われる。ダボス会議には、各国首脳や閣僚、企業経営者、国際機関の長などを含む約2500人が集まる。それらの世界的指導者に、格差の解消に向けた取り組みの必要性を訴えるのがオックスファムの意図するところだ。

◆予想を超えたスピードで格差拡大が進んだ
 オックスファムが2015年1月に発表した報告書では、2014年時点、世界の上位1%が世界の富の48%を所有していたとされていた。その上で、今後も格差拡大が抑制されなければ、2016年には上位1%が所有する富が50%を超えるとの見通しが示されていた。だが、ブルームバーグやロイターが言及するとおり、1年前倒しの2015年に、この予測は現実のものとなっていた(推計上)。

 ロイターは、富の格差は、誰も予期しなかったペースで拡大している、と語る。AFPによれば、世界の指導者らが格差問題に取り組む必要性について論じる機会は増えてきたけれども、最富裕層とそれ以外の格差はこの1年間で劇的に拡大した、とオックスファムは語った。またオックスファム・インターナショナルのウィニー・ビヤニマ事務局長は、世界の指導者の格差拡大の危機に対する懸念は「これまでのところ具体的な行動となっていない――世界はますますもって不平等な場所になっており、この傾向は加速中だ」と警告したという。

 世界の上位1%とは、どれほどの富裕者だろうか。オックスファムはこの報告書の作成にあたって、クレディ・スイスが昨年10月に発表した「2015年度グローバル・ウェルス・レポート」を主要なソースとしているが、それによると、純資産で75万9900米ドル、約8901万円というのが上位1%のラインだそうだ。(ちなみに、同じく6万8800ドル、約806万円で上位10%に入る。)

 BBCは、もしあなたがロンドンに、抵当権の設定されていない(支払いの完了した)平均的な一軒家を所有していれば、おそらくあなたは上位1%に入っている、と語っている。これは日本でも、地価が高い都市部などでは当てはまりそうだ。

 クレディ・スイスの「レポート」によると、2015年時点、日本には、米ドル建てで純資産100万ドル以上のミリオネアが212万人いたそうである。

◆富める者はますます富み、貧しいものはますます貧しく……
 またオックスファムによると、最上位62人が保有する富は、2010年から2015年にかけて44%増加し、1.76兆ドル(206兆円)に達したという。その一方、世界の貧しいほうの半分の富は、同期間に41%減少、額にして約1兆ドル減って、同金額に達した。ここにははっきりしたコントラストが見られる。

 オックスファムの報告書では、「とめどなく拡大する格差によって、62人が世界の貧しい半分と同等の富を保有する世界が生み出された」と語られている(AFP)。「世界の貧しいほうの半分の富が、1台のバスに乗り込めるほどの数十人の超大富豪の富と同じ程度でしかないという状態は、まったく容認できない」とビヤニマ事務局長は語っている(ブルームバーグ)。(なお、ニューズウィーク誌は、適切にも、ロンドンの2階建てバスの写真を記事に添えていた。)

 オックスファムによると、2010年時点では、最上位の388人と、世界の貧しい半分の富とが釣り合っていたそうだ。この点からも、この5年間で格差が拡大したことが分かる。報告書では、「トリクルダウン(滴り落ちる)どころか、収入と富はむしろ驚くほどのペースで上層に吸い上げられている」とされている(ロイター)。

 BBCによると、クレディ・スイスがこの「レポート」を発表し始めた2000年以来、2009年までは、上位1%の保有する富が全体に占める割合は、緩やかに減少傾向にあった。それ以降は毎年上昇しているという。2015年になって、2000年時点での割合を超えたとのことだ。

 クレディ・スイスの「レポート」は、格差が拡大する傾向が続いたことについて、調査対象期間、富裕国で株価が上昇したことや、保有する金融資産の規模が拡大したことで、一部の最富裕国、最富裕層の富が増大したことを理由に挙げている。だが世界的に見れば、ドル高が進んだために、実勢為替レートで計算した場合は富が減少したという。世界の貧しいほうの半分の富が減少した理由について、この点からいくらか説明がつくかもしれない。

◆タックスヘイブンによる租税回避が一番の問題とオックスファム
 オックスファムは、これ以上の格差拡大を食い止めるため、タックスヘイブンを利用した富裕な個人や国際企業の租税回避の問題に、最優先に取り組むべきであるとしている(AFP)。ダボス会議の出席者である各国政府代表や、大企業経営者らにその点を強く促している。

 オックスファムによると、最近のある推計では、7.6兆ドル(約890兆円)の個人資産が(オフショアの)タックスヘイブンに置かれているという。ロイターは、7.6兆ドルというのは、ドイツとイギリスのGDPを合わせた以上の規模だと注釈している。

 タックスヘイブンに置かれた資産に対しては、十分な課税ができず、租税徴収を通じての富の再分配ができなくなる。オックスファムの報告書は「貧困と不平等に取り組むために必要な、貴重な資金を政府から奪っている」と語っている(AFP)。

 オックスファムによると、この7.6兆ドルの資産について、本来支払われるべき税金が各国政府に納められた場合、その税収額は毎年1900億ドル(約22兆円)に上るという。また(貧困率の極めて高い)アフリカ全体の金融資産の3割もが、タックスヘイブンに置かれていると見積もられており、そのせいで毎年140億ドル(約1.64兆円)の税収が失われていると推計されているという。

 世界の富裕層そして多国籍企業は、社会が機能するための大前提である納税義務を果たしていない、とオックスファムはアピールしている。

Text by 田所秀徳