新国立で傷心のザハ氏、BBCのインタビューに激怒 性格が理由でメディアから目の敵に?

 イギリスの建築家賞を受賞し、BBCラジオの番組の電話インタビューを受けたザハ・ハディド氏が、同氏がデザインしたカタールのサッカースタジアム建設をめぐる質問に憤り、番組途中で電話を切ってしまうというアクシデントが起きた。英メディアは、強烈なキャラクターを持つザハ氏ならではの事件として、センセーショナルに報じている。

◆執拗な質問攻勢に憤慨
 英フィナンシャル・タイムズ紙(FT)によれば、ザハ氏が受賞したのは、建築家に贈られる賞としては、最も古く権威のある、RIBA(王立英国建築家協会)ゴールド・メダルだ。FTは、ザハ氏は今や世界一影響力があり、成功した女性建築家であると述べ、讃えている。

 受賞の発表を受け、英BBCのラジオ4はザハ氏に電話インタビューを行った。その際インタビュアーが、同氏がデザインしたクウェートのサッカー・ワールドカップ用スタジアムの建設現場で、1200人の外国人労働者が死亡したという話を持ち出した。事実ではないとザハ氏は強く否定したが、インタビュアーは引き下がらず、険悪なムードに発展。話題が日本の国立競技場に及んだあたりで、イライラがピークに達したザハ氏が、番組途中で電話を切ってしまったらしい(テレグラフ紙)。

 実は、1200人死亡報道を巡っては、ザハ氏はアメリカの文芸誌を相手取り訴訟を起こしており、すでに報道は撤回され、謝罪も受けている(英ガーディアン紙ブログ)。番組放送から7時間後、BBCは、インタビュアーが指摘した労働者の死亡者数は、ワールドカップ・スタジアム限定ではなく、クウェート全体での数字であったと訂正し、謝罪している。ザハ氏の事務所は、スタジアムの建設で事故が起こったことはなく、労働者の処遇には高い配慮がなされていると発表している(テレグラフ紙)。

◆キーパーソンこそ、倫理観を示すべき
 インタビュアーの質問自体には不正確だとして批判が集まっているが、カタールでの外国人労働者の扱いに大きな問題があるのは事実だ、とテレグラフ紙は述べる。アムネスティ・インターナショナルのムスタファ・カドリ氏は、カタールには中東特有の移民労働者監視システムのもと、事実上の強制労働、劣悪な住環境、低賃金、長時間労働など、さまざまな悪習がはびこっていると指摘し、ザハ氏のようなキーパーソンとなる人々は見て見ぬふりをするのではなく、制度の改革などを地元政府に働きかけるべきだと述べている。(テレグラフ紙)。

 イギリスの著名な建築家、リチャード・ロジャース卿は、ガーディアン紙に「建築家は倫理的であるべきというのは絶対だ」と主張。性差別、独裁、大量の武器供給などを懸念し、サウジアラビアでの仕事を拒否した経験を例に、「持続可能な世界を信じるなら、いくらかの抵抗も必要。社会への関与を求めるのなら、社会的責任感を見せなければ」と述べている。

◆ザハ氏だけが責められるわけ
 一方、ガーディアン紙のブログで建築・デザインを批評するオリバー・ワインライト氏は、怪しげな国のために仕事をしているのはザハ氏のみではないと断じ、他の著名な建築家が、カザフスタン、中国など独裁色が強い国の建築物をデザインしても、メディアの注目を受けていないと述べる。

 ワインライト氏は、ザハ氏の作品よりその性格に注目が集まっていると指摘。さらに、ステージに立てば不器用な技術者をしかりつけ、聴衆の注意が散漫だと怒りだし、インタビューを受ければ答えたくない質問には無視するか立ち去る、というザハ氏の行動が、単に気が荒いだけと受け流されず、メディアに目を付けられる原因であることを示唆した。

「自分は難しい人として見られてきた」、「女性建築家は常によそ者。それでいい。端っこにいるのは好き」とFTに語った気の強いザハ氏だが、国立競技場騒動にはかなり疲れたようだ。「東京のスタジアムの件で、この夏はとてもつらかった。ゴールド・メダルは、さわやかな風」と受賞の喜びを表現している(FT)。

Text by 山川 真智子