中国、輸出入急減で減速鮮明 国営保護し外資締め出しに舵か? 現地で懸念広がる
中国の貿易統計が8日、発表され、8月の中国の輸出は人民元建てで前年比6.1%減、輸入は14.3%減となった。大幅な黒字ではあるが、特に輸入が大幅に減り、中国経済の減速が改めて浮き彫りになったという見方が強い。また、同日の東京株式市場は中国経済への不安感などから大幅に反落し、日経平均株価は7ヶ月ぶりに安値を更新した。これらの数字を受け、英フィナンシャル・タイムズなど海外経済メディアの多くは、世界経済全体が下向き傾向に入ったと見ているようだ。
◆甘利経産相「2兆円分の追加刺激策を急ぐべき」
中国の貿易統計はドル建てでも発表されている。それに従えば、輸出は5.6%減、輸入は13.9%減で、人民元建てよりは良い数字だ。しかし、FTは、これをより実態に合わせて7月の月間平均為替レートに当てはめて再計算すると、輸出は約10%減、輸入は約17%減と、人民元建てよりもさらに厳しい数字が浮かび上がってくると指摘する。
中国の専門家は「この統計は、世界経済が大枠で下向きの傾向にあることを示す」と見る。中国の原油や鉄鋼などの原材料の輸入が落ちているのと同時に、中国の主要輸出先の日本やヨーロッパの需要も落ちている。FTは、今年の残り期間も、「引き続き世界的な需要が減速する」と見ている。
8日の株安に象徴されるように、中国経済の低迷は日本にもじわじわと影響している。FTによれば、甘利明経産相は「中国の減速がアジア経済全体に打撃を与える」という懸念から、2兆円分の追加景気刺激策を急ぐべきだという考えを示した。海外メディアとの記者懇談会で、税収増加分の4兆円の使い道を問われ、見解を述べた。
◆習近平体制が「国粋主義」「保護主義」に傾倒か
中国経済失速に対する不安は、中国でビジネスをする外国企業にも広がっている。ワシントン・ポスト紙(WP)のサイモン・デンヤー中国支局長が、北京の外国企業の動きをレポートしている。それによれば、投資を延期したり、従業員の解雇を進める外国企業が増えているという。
デンヤー記者は、この2、30年続いてきた中国の「改革開放路線」が岐路に立たされていると見ているようだ。同記者は「経済が失速した中国は、習近平国家主席のもとで非常に国粋主義的になっている」とし、経済的にも「保護主義的なアプローチ」に転換しつつあるのではないかと記す。その証拠に、北京の外国企業の間では、中国当局による締め付けが厳しくなっているという声も上がっているという。
ヨーロッパ企業コミュニティを代表する在中欧州商工会議所のヨレグ・ヴトゥケ代表は、「中国は家を改築しようとしているように思われる。しかし、外国企業はその家には入れないかもしれない」と、内需保護などの目的で国営企業の強化や外国企業の締め出しが進むのではないかと懸念する。在中アメリカ商工会議所のジェームズ・ツィマーマン代表も、「米ビジネス界の認識は、中国の改革が止まり、外国企業に開かれたドアが閉まるかもしれないというものだ」とWPにコメントしている。その背景には、先月の上海株式市場の崩壊や天津の薬品倉庫爆発事故などで、共産党政府の指導力と信頼が揺らいでいる状況があるようだ。
◆中国識者「中国は輸出と輸入の構造を調整する必要がある」
ロイターは、今回の貿易統計に対する識者の見方をまとめている。キャピタル・エコノミクス(香港)のエコノミスト、 ジュリアン・エバンズ・プリチャード氏は、「中国の貿易のさらなる減少は同国経済の見通し悪化の証拠だ、と一部で受け止められることは間違いないだろう。だが、明確な悪化とみなすのは誤解がある。天津の爆発事故や抗日戦勝記念式典による影響は8月でほぼ出尽くした。今後、中国の貿易は回復に向かう」と楽観的だ。
一方、中国商務省傘下のシンクタンクの貿易責任者は、「世界経済、特に主要国経済のパフォーマンスは予想以上に悪い」と厳しい見方をしている。「中国の競争力低下も一因であり、中国は輸出と輸入の構造を調整する必要がある」と、在中外国企業が懸念する改革開放路線の転換を示唆するようなコメントをしている。
日本も、今こそ中国の動向を注視する必要がありそうだ。松井証券の窪田朋一郎シニアマーケットアナリストは、「内需の好循環がみられない状況で、中国経済による悪影響も考えれば、日本経済は正念場」とブルームバーグに述べている。