天津大爆発、50人死亡700人以上負傷 有毒物質が地下水に…広がる環境汚染への不安

 中国北部・天津の港湾地区で12日深夜、大規模な爆発があった。化学薬品の保管倉庫で立て続けに2度の爆発があり、周囲約3kmの範囲で大規模な破壊と火災が発生した。中国国営新華社通信によれば、13日夜までに把握されている死者は50人で、数10人が行方不明となっている。また、701人が病院に収容され、そのうち70人以上が危険な状態だという。

 倉庫には数種類の化学薬品や液化天然ガスが保管されていたと見られる。一帯には危険な有毒ガスが発生し、人民解放軍の核兵器・生物化学兵器専門部隊が派遣された。国際環境保護団体グリーンピースは、有毒ガスや地下水に染み出した有毒物質が住民に深刻な健康被害をもたらす可能性があると警告している。現地の日系物流会社も被害を受けたようだ。主な海外メディアが、これまでの経緯を報じている。

◆放水による化学反応で大爆発?
 爆発は12日午後11時30分ごろ、中国北部最大の港、天津・浜海新区で発生した。最初の爆発から間もなく、さらに大規模な2度目の爆発があり、多数の火球が空に上った(新華社)。近隣のビルも甚大な被害を受け、多くの車が燃えた。爆発の衝撃は市の反対側まで伝わったといい、直接的な被害は爆発の中心から周囲約3kmにまでに及んだ。多くの住宅のガラスが割れ、広範囲にわたってガラス片や火のついた破片が飛び散り、これにより多数の負傷者が出た。爆発は宇宙からも見えるほどの規模で、日本の気象庁が発表した衛星写真にもくっきりと写っていた(英ガーディアン紙)。

 地元当局の発表によれば、50人の死者のうち17人は消防士だという。倉庫にはシアン化ナトリウム、トルエンジイソシアネート、炭化カルシウムなどの化学薬品のほか、圧縮された液化天然ガスなどの高可燃性の物質も保管されていたと見られる。この中には水に濡れると可燃性の有毒ガスを発生する薬品や高温に達すると大爆発を起こす薬品もある。爆発の原因はまだ分かっていないが、ニューヨーク・タイムズ紙(NYT)は、初期消火に当たった消防隊が不用意に放水し、薬品と水が化学反応を起こして大爆発を誘引した可能性もあると指摘している。倉庫を所有する会社のオーナーらが現在、当局の取り調べを受けている。

 薬品の強い刺激臭は爆発現場から1km以上離れた場所でも感じられ、多くの住民が目に痛みを訴えているという。現場の救助隊は、重防護服に身を包んで活動している。13日午後には軍の核兵器と生物化学兵器の専門部隊が現場に到着し、救助隊に風上に回るよう指示した。地元の人民解放軍もドローンと有人ヘリコプターによる捜索・放水活動などを行う130人の部隊を組織した(新華社)。

◆住民に広がる有毒物質への不安
 ガーディアンなどの現地報道によれば、爆発から丸1日たった時点でも、有毒ガスを含んだ黒煙が市内全域に漂っているという。グリーンピースは、有毒ガスと有毒物質を含んだ地下水により、住民に健康被害が拡大するリスクがあると警告した。北京市民の間でも、有毒ガスが天津から向かってきているという不安が広がっていると報じられており、政府はそれを否定するコメントを発表するなど対応に追われている。

 当局が事故の危険性を以前から認識していたという報道もある。NYTは、天津市の労働安全委員会が、ここ数ヶ月にわたって天津港の化学薬品関連企業に対し、夏場の高温多湿と多雨に備え、安全の再確認を命じていたと指摘している。

 今回の事故で多くの人が家を失い、約6000人が避難所生活をしている(ガーディアン)。天津は首都北京から車で90分ほどの人口1115万人の港湾都市だ。NYTによれば、中国では近年、こうした大都市の中産階級住民の間で都市部にある化学工場や化学薬品倉庫に対する不安が高まっており、各地で郊外への移転を求めるデモが起きている。今回の事故を受け、こうした反対運動が今後さらに高まる可能性もある。

◆天津港の物流がストップ、日系企業にも被害
 天津港は中国北部最大の港で、物流への深刻な影響も懸念されている。日本の物流会社「山九」も、倉庫のガラスが割れるなどの被害を受けた。同社の社員はブルームバーグの電話取材に対し、「港が閉鎖され、通関業務ができず業務に影響が出る可能性がある」と答えている。

 また、国際貨物輸送業の「エーアイテイー」は13日、今週末に天津港を出港する船を含め、「今後の船積みに大きく影響が出ることが予想される」と発表した。天津港では税関も損害を受けているといい、二次災害防止のため周辺地区の大部分が立入禁止になっているという(ブルームバーグ)。

Text by 内村 浩介