南北境界線で緊張 北が地雷攻撃、韓国は11年ぶりにプロパガンダ放送再開

 朝鮮半島の非武装中立地帯(DMZ)で今月4日、パトロール中の韓国軍兵士2人が地雷を踏み、足を失うなどの重傷を負った。韓国合同参謀本部は10日、爆発した地雷は、北朝鮮軍が軍事境界線を超えて埋めたものだったと発表した。韓国側は北朝鮮による「明白な挑発行為」だとして、厳しく非難している。これを受け、DMZ一帯では、2004年以降中止されていた南から北に向けたプロパガンダ放送が11年ぶりに再開した。ニューヨーク・タイムズ紙(NYT)、英フィナンシャル・タイムズ紙(FT)などの欧米メディアも詳報している。

◆北朝鮮軍が軍事境界線を超えて埋設か
 南北国境を形成する軍事境界線には、朝鮮戦争後、幅4km(南北各2km)の非武装中立地帯(DMZ)が設けられている。一帯には鉄条網付きのフェンスや監視所が要所要所に設置されており、両軍が大量に地雷を埋設している。今回の爆発事件は、ソウル北方の京畿道坡州(パジュ)のDMZの韓国側監視所のすぐそばで起きた。

 韓国防衛省の発表によれば、朝のパトロールに向かう兵士が監視所近くのフェンスの扉を開いた際、2つの地雷が爆発し、両足を吹き飛ばされた。別の兵士がこの兵士を助けようと近づいたところ、もう一つの地雷が爆発。足を1本失った。その後の韓国軍と国連軍の合同調査により、地雷は北朝鮮軍が使用する「木箱地雷」だと判明した。前回この場所でパトロールが行われた7月22日以降に、潜入してきた北朝鮮軍兵士によって埋められたと見られる。調査団長のアン・ヨンホ准将は、何者かが意図的に埋めなくては設置できない場所であったとし、韓国軍兵士を殺傷する目的で「北朝鮮軍が意図的に設置したもの」だと述べた(韓国・中央日報)。

 国境地帯ではこれまでにも、近隣住民が誤って地雷を踏み死傷する事故が何度も起きている。しかし、今回は北による意図的な行為だったことが韓国側に大きな衝撃を与えたようだ。「韓国政府関係者は、北からの潜入者が監視所のすぐ近くまで来て、フェンスの両側に3つの地雷を埋めて見つかることなく撤退したことに大きなショックを受けている」と、NYTは記す。北朝鮮情勢に詳しいソウル・東国大学のキム・ヨンヒュン教授も「これは、北による低コストで南に大きなインパクトを与える挑発行為だ」と述べている。

◆南のプロパガンダ放送が再開
 2011年に行われた調査によれば、韓国側の国境地帯にある江原道では、戦後116人の住民が地雷によって命を落としている。最近では、2010年に洪水で流れてきた、今回と同じ北朝鮮軍の木箱地雷によって住民1人が死亡した。しかし、DMZ内で韓国軍兵士が、北朝鮮軍の設置した地雷を踏んで死傷したのは、1967年以来だという(NYT)。

 韓国のハン・ミング国防部(防衛省)長官は、10日、爆発現場を視察して韓国軍部隊を激励した。同長官は「今回の敵の行為は明白な挑発であり、休戦協定と南北間の不可侵合意に正面から反する」と批判し、「敵の挑発に応じた苛酷な代価を払わせる」と述べた。また、パトロール部隊に、敵が挑発してくれば躊躇することなく自信を持って対応するように指示をした(韓国・聯合ニュース)。

 DMZ一帯では、同日、スピーカーによるプロパガンダ放送が11年ぶりに再開された。韓国軍は、朝鮮戦争後は北朝鮮側に向けたスピーカーから金王朝批判などのプロパガンダ放送を連日流していたが、和平に向けた動きの一環として2004年に中止されていた。韓国の保守派は、北との関係が近年再び悪化していることを受け、以前からプロパガンダ放送の再開を求めていたという。これに対し、北が「放送が再開されればスピーカーを攻撃する」と応酬する事態となっていた。韓国防衛省は、10日に再開された放送は、地雷事件の進展がない限り、毎日行われるとしている。一方、停戦を監視するアメリカ主導の国連軍司令部は、今回の件について停戦を犯す行為だと非難。南北両軍がこの件に関して話し合いを持つよう求めている。

◆際立つ北の強硬路線「日本の植民地支配終焉祝賀行事」の合同開催も拒否
 これが本当に北朝鮮による意図的な攻撃だとすれば、2010年の「延坪島砲撃事件」(4人死亡)、「天安沈没事件」(46人死亡)に次ぐ、重大な北朝鮮側の挑発行為だ、とNYTは記す。

 北朝鮮国営メディアは、この件について沈黙を続けており、その目的や意図は不明だ。FTは、背景として、最近の南北関係の悪化を示す2つの案件を挙げている。一つは、韓国統一省が先週、「日本の朝鮮半島支配終焉70周年祝賀行事」の合同開催を北朝鮮に呼びかける手紙を送ったが、突き返されたという件だ。この手紙には、分断家族の再会や韓国側からの北朝鮮観光の再開も提案されていたという。また、9日には金大中元大統領の未亡人が4日間の北朝鮮訪問から戻ったが、北側の高官には誰一人として会えなかったという。これについては、韓国メディアから「侮辱だ」と非難の声が一斉に上がっている。

 北朝鮮情勢に詳しいソウル・国民大学のアンドレイ・ランコフ教授は、北朝鮮が国際社会の非難を気にせず、こうした挑発的な態度に出ている背景に、最近の国内経済の好調があるのではないかと見ている。同教授によれば、闇市の急拡大と中国への天然資源の輸出で、「安定した成長の兆しがある」と指摘。外国の経済援助を受けるために遠慮する必要がないため、「彼らはもう、世界の誰とも話し合おうとしていない」と述べている(FT)。

Text by 内村 浩介