中国外相の「埋め立て中止」は方便?米は信用せず ASEAN諸国懐柔のためか
中国の王毅外相は5日、東南アジア諸国連合(ASEAN)外相会議出席のため訪れていたマレーシアのクアラルンプールで、南シナ海で進めている岩礁埋め立てを中止したと記者団に述べた。しかし、中国による一連の人工島建設を非難しているアメリカは、この中止発言を懐疑的に受け止めているとウォール・ストリート・ジャーナル紙(WSJ)は報じている。外相発言は領有権を争うASEAN諸国懐柔策の一環で、実際に中止したかどうかは疑わしいという見方が強いようだ。
一方、ロイターは、日本がフィリピンに小型練習機「TC90」を供与することを検討しているという特ダネを掲載している。海上偵察活動にも転用できる機体で、南シナ海周辺海域の中国船を監視するのが目的だという。
◆「人工島建設」を巡りASEAN会議が紛糾
今月1日から6日まで開かれた今年のASEAN外相会議は、南シナ海での緊張を巡り紛糾した。ASEANのレ・ルオン・ミン事務局長は4日、中国の南シナ海での拡張は「危険」であり、中国とASEANとの信頼を喪失させると述べた。ホスト国、マレーシアのナジブ首相も、ASEANは中国の領有権をめぐる挑戦に協力して対応すべきだと訴えた(WSJ)。
ケリー米国務長官も会議に出席し、5日に王外相と会談した。米政府筋によれば、ケリー長官は「中国に対し問題のある行動をやめるよう促し、中国が南シナ海の紛争水域で大規模な埋め立て・造成・軍事化を進め、緊張を高めていることに懸念を繰り返した」という(WSJ)。オーストラリアのビショップ外相も、中国の南シナ海での活動に対し懸念を表明。同国のシドニー・モーニング・ヘラルド紙は、「マレーシアで開かれているASEAN外相会議を通じて、南シナ海の紛争海域での人工島建設を巡る緊張がさらにエスカレートした」と報じている。
シドニー・モーニング・ヘラルドによれば、フィリピンのロザリオ外務長官も、「南シナ海での一方的でアグレッシブな“巨大造成工事”が中止される気配はない」と疑念を挟んだ。王外相はこれに反論する形で、南シナ海周辺で合同パトロールや合同軍事演習を画策している、とアメリカに非難の矛先を向けた。「南シナ海に何本の滑走路があるか数えるべきだ。それを先に作ったのは誰か」と、米軍が先にフィリピンなどに拠点を置いたのが悪いという論理を展開したという。
◆米は埋め立て中止にも融和策にも懐疑的
こうした中国とASEAN諸国、アメリカの綱引きが続いた中での王外相の埋め立て中止発言は、「周辺国との緊張を緩和するため」だったとWSJは見ている。ASEAN諸国から現地で受けた、予想以上に大きな非難の声をなだめようという意図があったのかもしれない。
中国は今回、ASEANとの関係強化を目指す「10項目の提案」を発表しているが、その最後で南シナ海問題にも触れている。中国国営新華社通信によれば、王外相はそれについて、「中国とASEANは適切に争いに対処することで南シナ海の平和と安定を保つべきだ。そして、協力を強化し、win-winの関係を目指すべきだ」と述べたという。
アメリカは、中国側のこうした融和的な発言を額面通りには受け止めていない。WSJは「米政府当局者は中国が埋め立て活動を本当に停止したのかどうか懐疑的に受け止めている」と記す。米識者らは、もともと、9月の台風シーズン前に一旦は工事のペースが落ちるだろうと見ていた。それを証明するように、中国は、造成を進めるサンゴ礁の一つ「ファイアリクロス・リーフ」に3000m級の大規模滑走路を完成させるなど、先月上旬ごろまでは急ピッチで人工島の軍事基地化を進めていた。また、ワシントンのシンクタンクは今週、中国が南シナ海で、2本目の3000m級滑走路の建設にも着手したと発表した。ある米政府当局者はWSJに対し、「たとえ停止されたとしてもそれが恒久的なものか一時的なものかは判断しづらい」と慎重な見方を示している。
◆日本はフィリピンに練習機供与か
日本もアメリカと歩調を合わせつつ、独自に東南アジア諸国との連携を図っている。軍事面では、最近はフィリピンとの関係強化が目立つ。6月には海上自衛隊のP3C対潜哨戒機を初めて同国に派遣し、フィリピン軍機と共に南シナ海のスプラトリー(南沙)諸島近海上空を飛ぶ合同訓練を行った。さらに、フィリピン軍に練習機「TC90」を供与することを検討中だと、ロイターが報じている。
ロイターによれば、フィリピン軍は、西太平洋に抜けようとする中国の潜水艦を牽制するため、P3Cに強い関心を示しているという。先の合同演習でも、フィリピン軍の士官らが同機に乗り込み、性能を確かめた。しかし、P3Cは収集した情報の解析などに高度な運用能力が必要なことから、扱いが容易なTC90が当面の供与機として候補に上がってきたようだ。
TC90のベースは、米ビーチクラフト社のビジネス機で、海上自衛隊ではパイロット育成用の練習機として運用している。とはいえ、日本側の関係者はロイターに、「レーダーを積めば偵察機として使える」「潜水艦は無理だが水上艦艇なら見ることができる」などと述べている。しかし、中古装備の海外への供与にあたっては日本側の法整備が必要なこともあり、ロイターは「検討はまだ初期段階にある」としている。両国の関係者も同機の供与については「承知していない」「決まっていない」とコメントしている。