表現の自由よりお金? 「検閲大国」中国に、世界のクリエイターが配慮する時代に…
習近平体制発足以来、メディアに対する中国共産党の検閲がより厳しくなっている。中国に輸入される映像作品や出版物は年々増加。欧米メディアの中には、巨大な市場を失うのを恐れて、中国の意向に沿う動きも見られる。
◆抗日でも有害コンテンツはだめ
中国のメディア検閲を行うのは、国家新聞出版広電総局(広電総局)だ。アメリカのネット誌『Parallels』によれば、広電総局は、セックス、暴力、言語表現、政治、文化、中国に関する描写などについて、有害な内容を一般大衆から遮断する役目を担う。その広電総局が、視聴者からのクレームを受けて、抗日ドラマ「一起打鬼子」の調査に乗り出したと、海外メディアが伝えた。
ドラマの内容は、日本軍に捕らえられた中国人男性が、面会に来た恋人の体を撫で回した後、彼女の股間に隠した手りゅう弾を発見し、日本兵もろとも自爆を試みるというものだ。最初にこのニュースを伝えた新華社は、社説の中で「国民感情を隠れ蓑に、視聴者を釣るためにセックスと暴力を使った」と番組を批判した(AP)。抗日ドラマは愛国的で安全とされ、厳しい検閲を通りやすいとAPは指摘。しかし今回ばかりは、あまりのなまめかしさへの視聴者の猛抗議で、放送中止になったと伝えている。
この話は、中国の外から見ればお笑いネタに過ぎないかもしれない。が、こうした検閲が、中国売り込みを図る海外のクリエイターにまで及んでいる以上、笑い事ではないだろう。
◆作者も知らない間に検閲が
作家の表現の自由を擁護する団体、PENアメリカン・センターの調査によれば、中国では欧米文学の翻訳作品が、作者に知らされることなく一部削除されたり、内容を変えられたりするケースがあるという。特に台湾、チベット、天安門事件等の敏感な政治問題はその対象であり、性的表現、同性愛への言及にも難色が示されるらしい(英ガーディアン紙)。
検閲に憤る作家もいるが、今年は2.4兆円を超える規模になると予測される中国市場の魅力にはかなわず、検閲を了承する作家や出版社もいるという。PENアメリカン・センターは、作家や出版社の妥協や、それが表現の自由に与える影響を深く懸念するとしている(ガーディアン紙)。
◆あの手この手で中国取り込み
中国の検閲は、ハリウッドにも及ぶ。現在、中国は世界第2位の映画市場で、数年後には北米を抜いて1位になると見られている。そのためアメリカの映画会社は、中国市場を取り込むため、広電総局の検閲基準に配慮し、中国のイメージを傷つける描写の削除、中国人を喜ばせるシーンの挿入、他国から中国への舞台の変更など、様々な対応をしている(Parallels)。
ニューヨーク市立大学でメディア文化を教えるイン・ジュー教授は、「中国批判の映画が絶対的タブーになるだろう」と指摘。中国市場がまだ小さかった頃、ハリウッドではダライ・ラマを描いた『セブン・イヤーズ・イン・チベット』、中国の法制度を批判した『北京のふたり』などが製作されたが、中国市場の重要性を考えれば、このような作品への資金は、今なら集まらないだろうと述べている(Parallels)。
◆日本の人気漫画も対象に
さて、アメリカのネット誌『Verge』に、中国のコミ・コンについての記事を寄せたライターのエリック・クロウチ氏は、4月にオンラインで配布された中国政府の文書で、日本の『セーラー・ムーン』、『ナルト』、『ワンピース』が、「暴力的」または「低俗」な作品として、検閲推奨リスト入りしたと述べた。
同氏は、習近平体制下で検閲が強化されていると指摘。中国の漫画ファンやアニメ業界にとっては、才能とインスピレーションの潜在的宝庫である日本が遠くなることは、よくないだろうと述べた。