中国、南沙諸島に滑走路 米中主導権争い激化と米専門家 今後レーダー施設も建設か

 中国が埋め立て・造成を進める南シナ海のサンゴ礁で、3000m級の滑走路の建設が進んでいることが、16日に公表された衛星写真により判明した。滑走路は、大型の軍用機を含むほとんどの航空機の離着陸に十分な規模で、写真を公表・分析したイギリスの軍事研究機関「IHSジェーンズ」は、中国空軍の前哨基地として利用される事を確実視している。南沙諸島に中国が滑走路を建設している具体的な証拠が示されたのはこれが初めて。ウォール・ストリート・ジャーナル紙(WSJ)、ニューヨーク・タイムズ紙(NYT)、ロイターなど欧米主要メディアが大きく報じている。

◆大規模な滑走路が3ヶ所に
 滑走路の建設は、欧州の『エアバス・ディフェンス・アンド・スペース』の人工衛星が今年3月23日に撮影した写真で確認された。IHSジェーンズが、同社発行の軍事専門誌『ジェーンズ・ディフェンス・ウィークリー』で分析記事と共に公表した。

 IHSジェーンズの分析によれば、南沙諸島西部のファイアリー・クロス礁の北東部に、舗装された503m×53mの滑走路の一部と、400m×20mのエプロン(駐機場)が確認された。この他の部分の舗装・整地も進んでおり、最終的には全長約3000mの滑走路になると見られる。中国空軍の既存の滑走路は2700mから4000mで、超大型ジャンボジェット『エアバスA380』が必要とする滑走路も2950mだという事実に照らし合わせ、IHSジェーンズは「3000mというのは、ほとんどの航空機に十分な長さだ」としている。

 また、同時に公表された南沙諸島北部のスービ礁(渚碧礁)の3月5日の写真からは、小さなサンゴ礁が本格的な島に造成されつつある事が分かった。IHSジェーンズは、こちらにも3000m級の滑走路を建設可能だとしている。また、西沙諸島の中国が実効支配するウッディー島(永興島)でも、2300mの既存の滑走路を3000mに拡張する工事が行われているという。

◆「中国軍の行動範囲が飛躍的に拡大」
 『ジェーンズ・ディフェンス・ウィークリー』のアジア太平洋担当編集者、ジェームズ・ハーディー氏は、「我々は間違いなく軍用の滑走路だと考えている」と述べている。また、「中国軍はファイアリー・クロス礁を南沙諸島における軍事行動の指揮統制センターに選んだ」と分析している(NYT)。

 U.Sネイバル・ウォー大学(米海軍士官学校)のピーター・ダットン教授は、このニュースに触れ、「非常に大きな戦略的な出来事だ」と懸念する。同教授はファイアリー・クロス礁が空軍基地として利用されれば、中国空軍の南シナ海での行動範囲は飛躍的に広がると指摘。この15年間同地域で繰り返されている米軍機と中国軍機のニアミスの危険度はさらに上がり、南シナ海での米中の主導権争いが激化するだろうとNYTに述べている。また、ダットン教授ら米軍事専門家の多くは、中国は南沙諸島の人工島に、さらにミサイル・レーダー基地を建設すると見ている。

 中国は、昨年から南沙諸島の小さなサンゴ礁を埋め立て、軍事利用可能な人工島に変える造成工事を急ピッチで進めている。ファイアリー・クロス礁は確認されている7ヶ所の一つで、既にヘリポート、桟橋などの施設が完成している。今回公表された衛星写真では、桟橋を強化する工事も進んでいることが明らかになった。中国当局は、これらの工事は主に民間利用目的のためだと述べる一方、同時に「防衛上のニーズを満足させる」ためだともしている(WSJ、NYT)。

◆日中の非難の応酬も
 アメリカは、南沙諸島での中国の動きを繰り返し非難している。カーター国防長官は、今月8日の来日時に「軍事化の可能性を懸念している」などと、埋め立てを強く非難した。米海軍のポール少将も、訪問先のオーストラリアで「公海での動きを制限しようとしている者がいる。何もなかった所に土地を作ろうとしている者がいる。共有するべき場所に立ち入り禁止区域を作ろうとしている者がいる」と述べた。さらに米海軍が新たな艦船攻撃部隊の創設を進めていることを明かし、中国を牽制している。

 一方、東シナ海での日中の緊張関係を示すデータも公表された。防衛省は15日、昨年度の自衛隊機のスクランブル回数が過去最高の1984年よりも1回だけ少ない943回だったと発表した。NYTは、これを冷戦時並みの緊張状態だと報じている。主な要因は中国とロシアの動きが活発になっているためで、防衛省によれば、中国機に対するスクランブルは464回で、そのほとんどが尖閣諸島に接近する戦闘機だったという。

 日本政府は、南シナ海での中国の動きについても懸念を表明している。16日にワシントンで開かれた日米韓3ヶ国外務次官協議の後、斎木昭隆外務次官が「中国は域内の懸念に対応する義務がある」と記者団に発言(ロイター)。一方、中国国営新華社通信は「日本は多国間協議の場を利用して南シナ海の状況に介入し、再び間違った時に間違った場所で賢くない動きをした」と非難する記事を翌17日付で配信している。

Text by NewSphere 編集部