イエメン紛争、日本の原油輸入に悪影響も 自衛隊による海峡監視が必要に?
中東での紛争は絶え間なく続く。イラク戦争から始まって、シリア紛争、それにイスラム国(ISIL)が絡んだ戦いに発展。それがまだ終わらない中で、今度はイエメン紛争が注目を集めている。イエメン紛争は先月末よりサウジが直接介入しているが、シーア派のフーシ、スンニ派のアルカイダ、スンニ派サーレハ前大統領支持者、そしてサウジに亡命したスンニ派ハディ暫定大統領支持者が、それぞれ絡んだ複雑な紛争になっている。
また、この紛争はサウジの日本向け石油輸出に多大の支障を来たす可能性がある。紅海を通過する日本向けサウジの石油タンカーは、イエメンと対岸のアフリカのジブチ共和国との間の30kmの幅しかないバブ・エル・マンデブ海峡を通過せねばならない。この海峡のイエメン側がフーシの完全な支配下になると、サウジからの石油輸出が難しくなる可能性がある(スペインのワン・マガジン紙他)。
◆イエメン紛争はスンニ派とシーア派が錯綜した戦い
現在のイエメン共和国は、1990年に北イエメンと南イエメンが合併して成立。その大統領にサレハ氏が就任。2011年、「アラブの春」の影響で、独裁者となっていたサレハ大統領は失脚。副大統領だったハディ氏が翌年暫定的に大統領に選ばれた。
その間、1990年代から政治的活動を開始し、米国のイラク侵入の2003年から激化していたシーア派武装組織のフーシが徐々に勢力をつけ、イエメンの人口2500万人のうち3分の1を占めるまでになった。そのフーシが、今年1月にクーデターを起こし、ハディ政権を倒壊させた。ハディ政権の打倒にはサーレハ前大統領を支える多くのスンニ派がフーシに協力したという(スペインのパハロ・ロッホ情報紙)。
◆サウジに味方するアラブ連盟
サウジの最初の空爆にはアラブ首長国連盟、クエート、カタールが加わった。スーダン、トルコ、エジプト、モロッコ、バーレーンもこの攻撃を支援。エジプトはフリゲート艦をイエメンに向かわせた。(米国も軍需品などの提供を約束。米国はイランと核開発協議を進めている中で、平行してイエメンのシーア派フーシへの攻撃にも加担するという複雑な外交展開を選んだ。)サウジは15万の兵力に、戦闘機100機で攻撃体制を整えた。一方、フーシの軍隊サーダ軍はサウジとの国境の方に向かっており、国境での武力衝突も懸念されてくる(スペインのRTVE広報紙/スペインのパハロ・ロッホ情報紙)。サウジの特殊部隊が、フーシ派制圧を進める同国政府軍を側面支援している、という情報もある。(AFP)
なぜ、サウジはイエメンへの攻撃を開始したのか。その理由は、イエメンのシーア派がサウジ国内に存在するシーア派と連携してサウジの政情不安を招くことを回避するためである。また、シーア派のリーダー国イランからイエメンへの影響を食い止めるためでもある(スペインのパハロ・ロッホ情報紙)。
◆イランの情勢に乗る器用さと、その反対のサウジ
サウジに亡命したイエメンのハディ暫定大統領は、フーシはイランの操り人形だ、と言ったが、アラブ諸国はイランの中東での影響力拡大を非常に恐れている。先日エジプトのカイロで開催されたアラブ連盟は、サウジを全面的に支援することを決めた。サウジが連盟からの支援を得ることを求めた背景には、イランの7800万の人口規模とその軍事力の前に、湾岸諸国は2500万の人口しかなく、その軍事力も劣勢となるからであるという(サウジのアラビア・ウォッチ紙)。
しかし、カタール大学の湾岸研究センターのルチアノ・ザッカラ教授は、イランは「アラブの春」以降、勢力は伸ばしていない、むしろイスラム国の拡大の前に影響力は減少している、と指摘している。英国のチャタム・ハウスのダルトン教授も、イランの軍事的脅威は米国が支援する湾岸諸国に比べ、言われている程大きなものではない、と答えている。しかし、同教授は、イランは戦略的に好機を掴むのが上手いと述べた。その例として、パレスチナのハマスやイラクのクルドというスンニ派を支援していることを挙げた。同様の評価は多くのアナリストの間でも共通した意見だ。
◆日本向けサウジ石油が危険に晒される可能性がある
4月2日の米イスパノTV広報紙によると、イエメンと対岸のジブチとの間のバブ・エル・マンデブ海峡に面した港のひとつがフーシによってコントロールされたと報じた。この海峡は狭い上に、島もあり航海が難しい。この海峡から一日380万バレルの石油が通過しており、その90%が日本向けなのである。
対岸のジブチには自衛隊が哨戒機を使い600人の兵員を駐屯させて、ソマリアの海賊対策で活動している。これからイエメン紛争が過激化すると、この海峡での石油タンカーの安全航海を監視する役目も担うことになる、とメキシコのエル・エコノミスタ紙が指摘している。