南シナ海:米軍高官、中国の岩礁埋め立てを厳しく批判 “面の皮厚い”中国は無反応

 中国が南シナ海の南沙諸島で人工島の建設を進めている事について、米太平洋艦隊のハリー・ハリス司令官が「中国は砂の長城を築こうとしている」などと批判した。ウォール・ストリート・ジャーナル紙(WSJ)は、ハリス司令官の一連の批判を、米側の「公の発言としては最も厳しい口調」と報じている。

 また、英フィナンシャル・タイムズ紙(FT)は、この問題に絡め、日本の沖ノ鳥島を含む「太平洋の絶海の孤島で行われている人工島の建設」が、アジア太平洋地域の新たな火種になるとする記事を掲載している。

◆人工島の建設が急ピッチで進行中
 中国は、フィリピン、マレーシア、ベトナム、ブルネイ、台湾と係争中の南沙諸島の複数の島(サンゴ礁)で、浚渫・埋め立て工事や施設建設を進めている。これらは習近平国家主席が就任した2012年から始まり、最近はそのピッチが上がっているという。ハリス司令官は1日、海洋安全保障会議に出席するために訪れていたオーストラリアの首都キャンベラで、「人工島建設の規模やスピードが、中国の意図に関する深刻な疑問を呼ぶ。この地域が対立に向かうのか、それとも協力に向かうのかは、今後の中国の出方しだいだ」と懸念を表明した(WSJ)。

 軍事情報機関大手のIHSジェーンズが公表した今年1月の衛星写真によれば、ヒューズ・リーフ(東門礁)に2つの埠頭とセメント工場、ヘリポートが見られる。画像を分析した専門家は、「中国はここにサッカー場14面に相当する人工島を建設している」と指摘する。また、ジョンソン・サウス・リーフ(赤爪礁)とガベン・リーフ(南薫礁)でも、同様の工事が相当進んでいるようだ。ハリス司令官は今回の発言の中で、「中国は4平方kmの人工の土地を作り上げた」と指摘している(WSJ)。

 ハリス司令官は、「我々は、中国が不安定の元になるのではなく、安定に貢献することを望んでいる。しかし、海軍の考え方で言えば、期待は戦略ではない」と中国を牽制。また、自身が暮らすハワイの美しいありのままの自然を引き合いに、「それとは非常に対照的に、中国は何ヶ月もかけて貴重なサンゴ礁を浚渫し、ブルドーザーで“砂の長城”を築いている」と、環境保護の面からも強い批判を加えている(豪紙『ザ・オーストラリアン』)。

◆各国の批判を撥ねつける中国は「非常に面の皮が厚い」
 アメリカは「あらゆるチャンネル」を通じて中国にこうした工事を中止するよう、非公式に求めているという。南沙諸島の領有権を主張するベトナムも、同様の申し入れを行った。同国のファム・ビン・ミン外相は、中国が中止を受け入れる気配はないとしたうえで、「これらの中国の活動によって、既に問題が複雑になっているこのエリアの緊張がさらに高まるだろう」と批判している(FT)。

 日本のシンクタンク、国際問題研究所の高木誠一郎氏も、「中国は非常に面の皮が厚い」とFTに語っている。中国はハリス提督の発言に関してコメントをしていないが、工事については従来から「自国の領海とみなす海域での人工島建設には正当性があり、理にかなっている」と主張している(WSJ)。

 ハリス司令官は、米国がアジア太平洋地域での軍備強化を目指していることには変わりなく、2020年までに海軍の60%を太平洋艦隊に置く方向だと述べた。その中には島嶼奪回作戦などに用いられる強襲揚陸艦も含まれるという(WSJ)。日米豪は昨年、中国に対抗するため、安全保障と防衛分野での協力関係を強化することに合意し、防衛装備品や技術の移転に関する協定に署名している。

◆日本の沖ノ鳥島も係争の火種に?
 一方、FTは「中国の活動が際立っているが、他の国々も似たような手段を用いている」と、日本と台湾の事例を取り上げている。日本最南端の沖ノ鳥島では、1987年から補強工事などが行われており、昨年には桟橋の建設工事で死傷者が出ている。同紙は沖ノ鳥島について、「排他的経済水域(EEZ)の主張を強化する動きの一つだ。日本はEEZの設定に相応しい“島”だと主張しているが、中国は『単なる岩だ』と指摘している」としている。

 FTは、「日本はサンゴの養殖で島を自然に拡張する研究に投資している」とも指摘する。その狙いは、周辺海域の領有を主張するためには、基準となる島が「自然なもの」でなければならないという国連のルールに沿うためだとしている。

 また、台湾は、中国、ベトナム、フィリピンも領有権を主張する実効支配中の南沙諸島・太平島に、滑走路などを建設する計画を進めているという。

 中国は昨年、南シナ海における挑発行為を避けると誓約する取り決めに署名した。これに拘束力はないが、無人島(サンゴ礁)に居住してはならないという項目も含まれる(WSJ)。FTは、これにより中国は、「ベトナムや日本との係争から一歩引いた」とし、今は軍事的プレゼンスや制空権の強化を狙って「既に実効支配している島を要塞化する事に焦点をシフトした」と分析する。そして、日本や台湾の動きも含め、「人工島の増加が地域の新たな発火点になっている」と懸念している。

Text by NewSphere 編集部