過去「いいね!」で逮捕も インドのヘイトスピーチ禁じる法律却下 「言論の自由守られた」
インド最高裁は24日、ヘイトスピーチなどの「攻撃的なメッセージ」をインターネット上のソーシャルメディアなどに投稿することを禁じる法律を、憲法が保障する言論の自由を侵害しているとして、無効とする判決を下した。この法律が施行されていた15年間で実際に逮捕者も多く出ており、インド社会で大きな議論の的になっていた。現地メディアのほか、米ウォール・ストリート・ジャーナル紙(WSJ)なども報じている。
◆「違法な言論の定義・線引きが不明確」
無効とされたのは、「インド情報技術(IT)法」の「66A」項だ。同項は、パソコンなどの情報通信機器を用いて「怒り」「迷惑」「敵意」「ヘイト」「憎悪」などを引き起こすような情報を、FacebookなどのソーシャルメディアやHPに投稿したりシェアすることを禁じている。
この日、首都・ニューデリーの最高裁には大勢の人々が詰めかけ、判決に耳を傾けた。判決を下したナリマン裁判官はその理由を、同項の規定が曖昧であり、「どこからが法に触れるのか明確に線引きされていないため」だとした。同裁判官は「誰かにとっては攻撃的なものが、その他の者にとってはそうではないかもしれない」とも語った(WSJ)。
また、インドIT法では、フェイスブック社やグーグル社といった企業に、自社のソーシャルメディアの「違法な素材」を自発的に削除したり、投稿したユーザーのアクセスをブロックすることを求めていた。今回の判決は、裁判所の命令か政府の指摘がない限り、運営企業がそうしたことをしてはならないとした。
プラサドIT大臣は、「政府は自由なソーシャルメディアを支持する」と、判決を受け入れる方針を示した(WSJ)。
◆「いいね!」だけでも逮捕
問題になったインドIT法は2000年に施行され、今回の判決の直前まで実際に逮捕者を出している。インド紙『ヒンドゥスタン・タイムズ』は、10の逮捕事例を挙げている。
逮捕者が集中的に出たのは2012年だ。同年9月、フリースピーチ運動家・漫画家のアセーム・トゥリベディ氏が国会などを風刺した漫画を自身のHPとフェイスブックページに掲載したとして、逮捕された。その2ヶ月後には、2人の若い女性が、ヒンズー教系右派政治家の葬儀のためムンバイ市が封鎖されたことについて、疑問をフェイスブックに投稿したことで逮捕された。一人が投稿し、もう一人は「いいね!」をしただけだという。この件は後の裁判で棄却された。
同年には、大学教授ら2人が西ベンガル州のバナジー首相を風刺した漫画をEメールで回覧したとして逮捕されたり、エア・インディアの客室乗務員2人が首相や政治家に関する「下品なジョーク」を投稿したことで逮捕されるケースもあった。前者の事件の大学教授は当時、「やましいことは何もしていない」とコメントし、3年後の今月、コルカタ高裁は西ベンガル州政府に対し、2人への賠償金の支払いを命じている。一方の客室乗務員らは「単にどこでも手に入るコンテンツをシェアしただけ」と反論していたが、12日間勾留され、容疑が取り下げられるまでの数ヶ月間、停職処分になったという。
昨年8月には、モディ首相の顔に足跡がついた写真をフェイスブックに投稿したとして、『インド左派共産党』のメンバーが逮捕された。最後の逮捕事例は、最高裁判決直前の今月のことだ。10代の学生らが、ウッタルプラデシュ州のカーン首相に関する「不快なコメント」をフェイスブックに投稿したとして、収監された。最高裁はウッタルプラデシュ州警察に対し、逮捕に至った経緯を説明するよう求めている。
◆原告は商品評価サイト―CEO「判決はデジタル経済への移行を後押しする」
「66A」を含むIT法の施行とこれらの逮捕事例は、IT立国を国策の一つに掲げるインド社会に大きな議論を巻き起こした。市民団体などが“Save your Voice”をスローガンに掲げて反対運動を展開。その後、『Mouthshut.com』というユーザーベースの商品・サービス評価サイトが最高裁に条項の撤廃を求める請願をし、今回の判決となった。判決について、『Mouthshut.com』のファルーキCEOが現地紙『インディアン・エクスプレス』のインタビューに答えている。
同氏は、「フリースピーチ運動、そして国全体の完全な勝利だ」と勝利宣言。「66Aは基本的に外された。これからは、オンラインでどのような投稿をしても、裁判所や司法の命令なしには逮捕されることはないし、いきなり投稿やコンテンツを削除されることもない」と、判決がもたらす効果を説明した。そして、「この判決によって、インド経済はデジタル経済へ移行できるだろう」と付け加えた。
また、「今後、ヘイトスピーチにはどう対処すべきか?」という質問に対して、ファルーキ氏は次のように答えている。「ほとんどの良質なウェブサイトとソーシャルメディアは独自の条項を掲げており、それを守っている。誰も中傷的なコンテンツを持ちたいとは思わない。(66Aの)問題は、ユーザーに何が誹謗中傷になるかという判断を求め、責任を押し付けたことだ」