中国主導のアジア投銀に韓国ら続々参加か “短絡的”不参加の日本を中韓メディアが批判

 中国主導で年内の設立準備が進むアジアインフラ投資銀行(AIIB)の創立メンバーに、イギリスが先週、西側諸国で初めて参加意志を表明した。これに続き、フランス、ドイツ、イタリア、スイス、ルクセンブルグも参加の方針を固めたようだ。英フィナンシャル・タイムズ紙(FT)などが報じている。

また、韓国メディアによれば、韓国も条件付きで参加の意向を固めたようだ。オーストラリアも参加に前向きで、今週中に方針を決定すると報じられている。一方、AIIBの直接のライバルとなるアジア開発銀行(ADB)を主導する日本は、アメリカと共に不参加の方針を貫いている。これについて、中国共産党機関紙・人民日報や韓国の朝鮮日報が批判的な論説を掲載している。

◆英に続き、独仏伊などが参加か
  AIIBは中国が2014年に構想を発表し、今年末に設立となる見込みだ。年初の中国の発表によれば、アジア・中東の26ヶ国が創立メンバーに名を連ねている。アジア太平洋地域の発展途上国の運輸、エネルギー、通信などのインフラ投資が目的で、日米が最大の出資国となっている世界銀行やADBのライバルになると見られている(英紙ガーディアン)。

 イギリスは先週、西側諸国で初めてAIIBの創立メンバーになる意志を表明した。
FTは、欧州政府高官の話として、これに続いてフランス、ドイツ、イタリアが参加の意志を固めたと報じている。また、中国国営新華社通信は、スイス、ルクセンブルグの名前も挙げている。FTは、これら欧州諸国の“離反”を、「アメリカにとっては大打撃だ」とし、中国とアジア太平洋地域での覇権を競うオバマ政権の外交政策が「大きく後退した」と見ている。

 アメリカと日本はAIIBについて、腐敗防止策や環境・社会的セーフガード、融資基準の透明性などに関して懸念を示している。欧州諸国の動きを受け、米財務省は改めて「(AIIBは)国際社会が作り上げてきた高い基準を取り入れなければならない」と述べ、新たな参加国はそれを推進する立場を取るべきだと注文をつけた(FT)。一方、米政府の東アジア担当トップのラッセル国務次官補は17日、参加するかどうかは各国の判断に委ねられるという主旨のコメントをしている(ガーディアン)。

◆人民日報「日本の不参加は短絡的」
 日本は、菅義偉官房長官が17日の記者会見で「日本は慎重な態度を取る。今のところ参加は考えていない」と述べるなど、不参加の方針を貫いている。人民日報(日本語版)の社説はこれを、「日本は“兄貴分”の米国のメンツを立てなけてばならず、また自国の利害得失について慎重にそろばんをはじいてもいる」と見ている。

 同社説は、「日本が最も懸念するのは、AIIBが発展して日本と米国が主導するアジア開発銀行(ADB)が隅に追いやられることだ」などとし、「こうした考え方は日本の立場に立てば合理的なものだと言える」と一定の理解を示している。しかし、中国がAIIBを私物化するのではないかという懸念については、今のところ50%とされる中国の出資比率は参加国が増えれば増えるほど下がると反論。また、他の国際金融機関同様、参加各国は理事として取締役会議に参加できるとしている。

 AIIB創立メンバーの参加締切は今月いっぱいだ。人民日報は、「日本を含めどの国であれ、AIIBに積極的に参加することが可能だ。参加すればアジアにメリットをもたらすことができるし、自国の経済的なメリットや国際環境における拡大発展にもつながる」と、日本がAIIBを拒絶することは「自国のチャンスを放棄するに等しい」と主張する。そして、「日本がAIIBに参加しないのは短絡的な選択であることは間違いない」と批判している。

◆韓国紙はADB総裁職を独占する日本を「自己本位」と批判
 韓国は当初は参加に積極姿勢を示していたが、アメリカの要請に従う形で議論を一時棚上げしていた。それがここに来て、参加の意志を固めたという国内報道が相次いでいる。中央日報は「国益にプラスとなる方向で決めることになるだろう」という北京駐在の政府消息筋の発言を掲載。韓国外務省もAIIB参加に関する協議が政府内で進行中であることを認めている。

 また、韓国政府は参加を前提に、「中国が総裁職に就かない」「中国に本部を置かない」「韓国が副総裁職の一つを務める」などの条件を北京に打診する方針だともいう。ある韓国政府関係者は、「国益と国際情勢を考慮した時、中国がAIIB本部や総裁職をすべて手中に収めることに反対せざるを得ない。このような条件付きの加入方針を今月中に中国に通知する」と述べたという(韓国経済新聞)。

 韓国のAIIBへの傾倒の背景には、日本に対するライバル意識も見え隠れする。朝鮮日報は、このタイミングで、ADBの歴代総裁9人全員が日本人だったことを批判するコラムを掲載している。筆者のソン・ジンソク国際部記者は、日本の出資比率が最も高いことを考慮しても、他の国際機関の代表職は一国に偏っていないとし、「ADB歴代総裁にみる日本の自己本位」だと批判。「AIIBをめぐる世界の流れの中で、自己本位に終始一貫していた日本という国があらためて見詰め直されることになる」とコラムを結んでいる。

 一方、当の中尾武彦ADB総裁は、「実際にAIIBが設立されれば、協力していくことを検討する」と『Nikkei Asian Review』のインタビューで発言。ADBとAIIBとの間では既に、協力関係構築に向けた話し合いが進んでいるという(ガーディアン)。

Text by NewSphere 編集部