外国人研修生は奴隷ではない “日本の技術学びたい”インドネシアが寄せる熱い期待

 国外からの労働者受け入れ問題は、今年に入ってにわかにクローズアップされ始めている。労働力としての移民を受け入れるか否か、はたまた技能研修生という名目で来日してくる外国人の取り扱いについて、様々な議題が浮上している。

 特に技能研修生問題は深刻だ。「研修」の実態が劣悪な環境での低賃金労働というケースが少なくないと分かると、このような非人道的な取り組みは即刻廃止するべきという声が大きくなった。だが実は、「発展途上国の労働者を期限付きで日本に呼び寄せる」という行いそのものは外国政府から多大な期待をかけられているのだ。

◆日本の技術を求めるインドネシア
 総人口約2億5000万人を有するインドネシアでは今、自国の若い労働者を日本へ次々と派遣するプロジェクトが現地政府主導で行われている。現地メディアのムルデカ・ドットコムは、この問題に絡むラフマット・ゴーベル貿易大臣の声を伝えている。

「ゴーベル氏は、日系進出企業に対し商品の流通だけが政府の望みではないと提言。我が国の労働者の技術向上も事業の一つであると語った。『日系企業の役目は、モノ作りに留まらない。良質な人材資源の構築にも当然力を入れるべきだ』。チカラン工業団地で行われたエプソン主催『モノ作りセミナー』で、ゴーベル氏はそう話した」

 ゴーベル氏は中央大学出身で、かつては松下グループの社員だった。従って、ゴーベル氏の発言は日本財界に大きなインパクトをもたらす。資源輸出国から工業立国を目指すインドネシアにとって、エンジニアの育成は急務なのだ。

◆労働大臣の期待
 計画はすでに動いている。日本ではほとんど報道されていないが、インドネシア政府は2月25日に多数の技能研修生を日本に派遣した。これについては、現地経済紙ビジネス・インドネシアが詳しい。該当記事によると、日本国内の45の企業がインドネシア各地から集まった111人の若者を受け入れるという。期限は3年で、その後は必ず帰国しなければならない。

 ハニフ・ダキリ労働大臣は、「(過去の同様の取り組みによる)元研修生は現在、各企業で素晴らしい成果を収めている。同時に、日本での経験を生かし独立する元研修生もいる」と述べている。ダキリ氏が111人の若者にかけている期待の大きさは、この言葉で充分伝わってくる。それだけインドネシアという国は、スキルの習得に対して貪欲なのだ。

◆研修生は「留学生」
 さらに付け加えるなら、この111人は決して円貨欲しさで集まった集団ではない。実はインドネシア政府は、自国へやって来る外国人労働者を締め出すと同時に自国からも出稼ぎ労働者を極力出さないという方針で動いているのだ。

 一見矛盾に感じるかもしれないが、これについて現地紙トリブンが細かく書いている。

「ハニフ・ダキリ労働大臣は、インドネシアでの就労を望む外国人は必ずインドネシア語をマスターしなければならないと明言。また、外国での就労を望むインドネシア人も同じ条件を課せられていると話した。
(中略)
『もし我が国の国民が日本で働きたいなら、当然日本語を覚えるべきだ。香港ならば広東語を、行き先が中東でもそれは同じだ』。」

 もし該当国言語の検定試験に合格できない場合は、国外就労のための出国許可を与えないということもダキリ氏は語っている。すなわち、ダキリ氏が満を持して日本に送り出した111人は、すでにインドネシア国内での厳しい選考をくぐり抜けているということだ。そんな彼らはもはや「出稼ぎ労働者」などではない。「留学生」と表現してもいいくらいである。

 こうなると、外国人を受け入れる企業の側も「技能研修」という言葉の重みを認識せざるを得なくなってくる。そもそも「技能研修=奴隷労働」というイメージを日本国内で定着させてしまったのは、国際感覚に欠けたブラック企業の罪だ。個人だろうと法人だろうと、そのような者の行く先に明るい未来はない。我々日本人は今こそ、世界最先端の技術の「使い道」を本気で考えるべきではないだろうか。

Text by 澤田真一