ドイツ、給与抑えてギリシャ支援 強硬姿勢の背景には「ドイツ人気質」の努力が…

 ヨーロッパは益々「ドイツ風のヨーロッパ」になっているという批判が生まれている。ドイツの政治経済における影響力が強いからだという。一方、昨年BBCが行なった世論調査では、世界で最も賞讃する国のひとつにドイツが挙げられており、決して嫌われているわけではない。しかし、彼らは指導力を発揮することに強い抵抗感を持っているというのだ(スペインのラ・バングアルディア紙)。

◆「ドイツ人気質」で世界2位の輸出国に
 スペインのポリティコン紙は、ドイツの輸出力の源泉について触れている。それによると、ドイツは1999年から現在まで生産力は17.8%増加したにも拘らず、実質賃銀は15年前よりも少ないという。賃銀が上がらない理由は、長期の景気低迷が原因ではない。生産コストをコントロールし、飽くことなく競争力向上を追求するドイツ人気質から生まれた固有の現象だとする。ドイツの輸出成長の要因は、生産力の上昇と反比例して、労働者に支給する給与を生産性比で年々下げていくことを基盤に置いてきたことにある、と同紙は指摘している。

 ドイツでは生産性に競争力をつけるため、経営者と労働組合が昇給をできるだけ避ける、ということに相互に理解を示しているという。その一方で、インフレが無く、昇給も無い分、消費は伸びないというマイナス面もある。しかし、この経済メカニズムが世界で輸出力2位の国になっている要因なのである。この経済メカニズムは他のユーロ圏メンバー国にはみられないという。他のユーロ圏メンバー国は給与を2%ずつ一定のサイクルで上昇してきたからだ。昇給を長年据え置きにするという考えは特に南欧の国では受け入れられない。

 2014年のドイツは輸出で過去最高の記録を達成した。貿易収支は2170億ユーロの黒字、これまでの最高1953億ユーロ(2007年達成)を上回った(以上、スペインのポリティコン紙他)。

◆債務国と債権国が共存する難しさ
 そんな強力なドイツを前に、現在のユーロ圏は債権国と債務国が一緒に共存するという現象が生まれている。つまり、同一歩調で発展できないという問題を抱えている。ひとつの経済市場が二極化しているのだ。

 例えば、スペインのバンキンテル銀行が今年1月に出しているギリシャへの債権国リストがある。ギリシャは3170億ユーロの債務を抱えている国だ。GDPも2013年までマイナス成長が続き、昨年初めて0.6%の成長を達成。ドイツはこれまで727億2000ユーロをギリシャに融資している。そして、フランス552億900万、イタリア483億8000万、スペイン327億4400万が債権国として続く。

 ドイツがギリシャの最大の債権国となれたのも、企業と労働者が協力して上述の厳しい生産価格統制を行なってきたからである。長年の経常収支の黒字から債務国へ資金を融資してきたのである。

 ドイツのショイブレ財務相とギリシャのバルファキス財務相との交渉で、ギリシャの前政権が約束した緊縮策をシリザ政権は実行せずに、支援金の延長を求めようとした。その姿勢に、ショイブレ財務相は「第3者へのつけでお金を借りる姿勢に納得できない」と言ったという。つまり、ドイツの経営者と労働者が協力して現在の黒字国にし、ドイツはギリシャの最大の債権国となった。それに対し、ギリシャ新政権はドイツが求めている緊縮策を実行せずに、支援金の支払延長などを求めている。それでは恐らく返済は無理であろうとショイブレ財務相は考え、彼ら(ドイツの経営者と労働者の努力)を容易には犠牲にできないと感じて、上述の発言をしたという(スペインの主要各紙)。ドイツがギリシャ新政権との交渉で厳しい姿勢を示しているのもこの背景を考慮すると理解できる。

◆南欧国のドイツへの不満
 しかし、ドイツの経済構造と異なる国では、ドイツはヨーロッパのリーダー国でありながら、自国の経済メカズムに適した形にEU市場を構築していると映るようである。特に、南欧諸国でこの意見が強い。スペインで著名な経済学者フアン・トーレス氏は、ドイツはEUの中で巨大な経済国であるが故に、常に自国経済を優先した考えを持つようになるのは当然だ、と指摘している。常に輸出に依存するために共同市場の中でもドイツは優位性をもつ必要がどうしても生まれる。それがユーロ圏の他のメンバー国に対し妥協性に欠ける要求をするようになる、と指摘している(スペインのプエブロ紙)。

 ドイツは今でもリーダーシップを取ることを控えている。なぜなら歴史的に、ドイツが覇権を望むようになると、物事はうまく行かなくなる、と言われているからだという。リーダーシップを取ろうとしないが故に、逆に債務国を苦しめていると著名投資家ジョージ・ソロスは指摘している(スペインのエルパイス紙)。

 その一方、ドイツのヘルムット・シュミット元首相(96歳)は、ドイツが成功していることが明らかになると、近隣諸国の劣等感をかり立て、ドイツへの抵抗感を煽り、ドイツが犯した罪を彼らに思い起こさせるようになる、と述べてドイツは控え目でいるほうがよいといった助言もある(スペインのエルパイス紙)。

Text by NewSphere 編集部