“停戦合意後、親露派の攻撃が激化…”ウクライナ軍兵士の証言、現地紙報道 自軍批判も

 親ロシア派武装勢力が支配するルガンスクとドネツク。両地域を結ぶ要の都市が、デバリツェボである。ウクライナ軍と親露派勢力は、この都市を支配下に置くため、激しい戦闘を繰り広げてきた。独仏が仲介した停戦合意にも関わらず、双方の攻防は続いた。

 18日、ウクライナのポロシェンコ大統領が、自国軍の撤退命令を下したことによって、親ロシア派勢力による支配は決定的なものになった。英テレグラフ紙は、デバリツェボでのウクライナ軍の敗退は親ロシア派勢力にとって最大の勝利だ、と報じた。これは、親ロシア派がこれからもウクライナ東部を支配し続けることを意味する。

 海外メディアは、同地域の戦闘の模様や、今後の親露派勢力の目標について報じている。

◆ デバリツェボ攻防戦にまつわる当事者の発言
 ウクライナのキエフ・ポスト紙によると、どちらにせよ兵士たちは撤退しようとしていたという。40番師団のプレハリア中尉は、もしそこに留まっていれば捕虜になるか死ぬだけだった、と同紙の記者に語っている。彼は周辺の部隊とともに撤退命令を待った。その後、50人の兵士を連れて、敵に見つからないよう、20kmを歩いて撤退した。停戦合意後、逆に親ロシア派勢力とロシア軍からの攻撃はさらに強まった(敵方の動きから、相手はプロの軍人だとすぐにわかった)。また彼は、ムゼンコ将軍の司令本部が何度も誤った判断を下したことも強調した。
 
 一方、ロシアの海外向けメディア『スプートニク』によると、親露派勢力のバスリン副隊長は、ウクライナ軍に戦闘を中止して平和裏に撤退することを勧めていたという。それは人道的な理由からだとした。停戦合意を無条件で満たす用意があることも同隊長は強調した、と同紙は報じた。親露派勢力は、同地域は「停戦合意の範囲外」と主張していた。

 またEU上級安全保障代表のモゲリニ氏は、親ロシア派勢力が停戦合意を無視して攻撃を続けていると非難し、これ以上戦闘が続くようであればEUは適切な手段を講じる、と述べた(スペインのエル・パイス紙)。

◆ 国連平和維持部隊の派遣に親ロシア派とロシアは反対
 今回のウクライナ軍の撤退から、ポロシェンコ大統領は双方の戦闘能力に格段の差があると認めたのか、国連平和維持部隊の派遣を要請すると決めたようだ。ウクライナ政府が第3者を介して双方の平和維持に勤めることを要請すると決めたのは初めてである。国連軍派遣の提案は、ミンスクでの4者協議で既に議題に上がっていたとが、ポロシェンコ大統領は辞退したという。それを容認すれば、ウクライナ東部の領土を回復出来なくなると考えたからであろう(スペインのエル・パイス紙やロシアのスプートニク)。

 しかし、親ロシア派勢力のリーダーのプシュリン氏は、ポロシェンコ大統領の国連軍の派遣に反対している(RIAノーボスチ)。ロシアの国連大使チャルキン氏も、ミンスクでの停戦合意直後にも関わらず、新しい枠組を提示することは、現在の合意を破棄しようという疑いがあるとして、ポロシェンコ大統領の決断に疑問を投げかけた(同紙)。

 とはいえ、実際の理由は、国連軍がウクライナ東部とロシア国境の間を警備することを、親ロシア派勢力もロシアも望まないからだ。それを容認すれば、ロシアからウクライナ東部に武器の供給と兵士の派遣が難しくなるためだ(スペインのabc紙)

◆ ロシアはウクライナをNATO圏に譲れない
 では今後の親露派勢力の狙いはどこにあるのか。スペインのabc紙によると、彼らの次の目標は、黒海に繋がっているアゾフ海に面したマリウポリ港を完全支配下に置くことだという。地政学的な背景がある。

 ゲオポリティカ・ムルティコロール情報紙は、下記のように分析している。

 冷戦時、黒海は、旧ソ連が指揮したワルシャワ条約機構と、トルコが属するNATOの二つの勢力圏の間に挟まれた、外洋に繋がる海として存在していた。旧ソ連崩壊後、現在は6ヶ国が黒海に面して存在している(ロシア、ウクライナ、ブルガリア、ルーマニア、トルコ、グルジア)。米国は、北大西洋条約機構(NATO)を通して黒海の支配を目論んでいる。ブルガリアとルーマニアはワルシャワ条約機構からNATOに移った。グルジアも将来的にはNATOに加盟する姿勢がある。ロシアにとってこれらは脅威であり、さらにウクライナの地域をNATO圏に譲ることは、絶対に容認できない。その意味で、親露派も、実質的に支配するルガンスクとドネツクを手放す意向は毛頭ないだろう。

Text by NewSphere 編集部