NATO、対ロシアの「緊急展開部隊」設置へ 連携強める日本への影響は?

 北大西洋条約機構(NATO)は2月5日、ブリュッセルで国防相会議を開き、今回の主要テーマのひとつであった緊急展開部隊(VJTF=Very High Readiness Joint Task Force)の設置を決めた。目的は、東欧におけるロシア侵攻の可能性を前に、集団防衛抑止力を強化することだという。編成部隊は4,000-5,000人、2016年半ばから派遣できる体制にするという。さらに、ブルガリア、ルーマニア、ポーランド、バルト三国に、常時30~40人編成の部隊を置き、前線拠点を設置することでも合意したという(英BBC)。

 ロシアと欧米との対立の根深さを物語る本件について、欧州メディアが詳しく報じている。

◆対ロシア、対ISIL スペインが最初の緊急展開部隊に
 もし加盟国が攻撃された場合、緊急展開部隊は、先遣隊を48時間以内に派遣、後続を7日以内に送る。部隊の編成は、前回会議でも議論されていた。今回、ロシア抑止が主目的だが、ISILなどイスラム圏からの脅威にも対応できるようにする、とされた(スペインのエル・パイス紙)。ストルテンベルグ事務総長は、安全保障環境の大きな変化が背景にある、と述べたという。

 最初の緊急展開部隊は、スペイン・バレンシア師団が務める。5日付のスペイン国防省広報で通知された。任期は1年。指揮権はドイツ、フランス、イタリア、ポーランド、英国と持ち回りで行い、米国は情報提供など後方支援を担当するようだ。

◆ロシアにとっては脅威
 NATOは、あくまで部隊は防衛抑止が目的である、とする。しかし、ロシアはそうとは受け取っていない。プーチン大統領は、NATOがバルト三国と東欧に進出し、ロシア国境に迫ることを脅威とみている (英BBCムンド)。

 ラスムセンNATO前事務総長は、プーチン大統領が、バルト三国に対し変装した混成部隊の攻撃を仕掛けるかもしれない、と危惧する。NATOの「締約国に対する武力攻撃は全締約国に対する攻撃とみなす」という契約が、果たしてどこまで実行に移されるのかを試す可能性がある、というのだ。もちろん、攻撃は「レッドライン」を越えることになり、敗北を期すことをプーチン大統領は理解している。しかし、エストニアとリトアニアには、少数だがロシア人の味方がいる。ウクライナ東部情勢を念頭においてか、不透明な「紛争」に持ち込むことはプーチン大統領の得意技だ、とも同氏は述べている(スペインのロス・カランドゥリアス情報紙)。

 ウクライナ情勢について、メルケル首相は和平へ「全力を尽くす」と語った(ミュンヘンで6日から開催された安全保障会議)。メルケル首相はその前日、モスクワでオランド仏大統領とともに、プーチン大統領と5時間にわたり会談していた。

 一方、NATOの最高司令官ブリードラブ氏は、兵器と装備品をウクライナ軍に供給しないとは言えない、と答えた。ただ、NATO軍の派遣は否定した(スペインのabc紙)。緊急展開部隊の体制が2016年半ばから整えば、派遣の可能性も生まれることは明らかだが(スペインのカナル・スルTV広報紙)。

◆日本も他人ごとではない?
 NATOはこれまで欧州での防衛を対象にした組織であったが、2001年頃から、米国は中国との衝突をも考慮するようになった。そこで米国は、オーストラリアと日本を連携メンバーとすることにした。その関係もあり、昨年5月、安倍首相は欧州訪問時にNATO本部を訪問している。

 外務省の資料によると、2007年、当時の安倍首相が、「日本とNATOはパートナーであり、基本的価値を共有」と表明。現在では、NATOは「日本が積極的平和主義を実践する上で最適のパートナー」であり、地球儀俯瞰外交を進める上で「信頼できる必然のパートナー」だと明記されている。今後も様々な分野で連携が強化されると見込まれる。

 欧州とロシアの緊張関係は、改善へ向かう可能性は低い。欧米の対ロ制裁への対応のように、日本外交は今後も難しい舵取りを迫られることになるだろう。

Text by NewSphere 編集部