「世界上位80人の富、下位35億人とほぼ等しい」 英NGO発表 2010年より格差拡大傾向
貧富の差は世界的問題である。貧困問題の解決を目標とするNGO「オックスファム」が19日発表したレポートによると、2014年、世界の上位1%の最富裕層が、世界全体の富の48%を所有していた。最富裕層のうち、上位80人の大富豪が所有する富の合計は1.9兆ドル(約223 兆円)に上り、これは世界の下位50%、35億人が所有する富にほぼ等しいという。
◆富の格差は、ダボス会議でも主要な議題となる模様
このレポートは、「世界経済フォーラム」年次総会、通称「ダボス会議」が、21日よりスイス・ダボスで開かれるのに先立って発表された。ダボス会議では、世界を代表する政治家や実業家など約2500名が一堂に会し、世界の重要問題について討議を行う。昨年は安倍首相が出席し、基調講演を行った。
英ガーディアン紙によると、今年のダボス会議では共同議長が6人おり、その中の1人がオックスファム・インターナショナルのウィニー・ビヤニィマ事務局長である。オックスファムの訴える富の格差の拡大が、同会議での主要な議題の1つになることが予想される。
◆上位20%が世界の富の94.5%を所有
オックスファムのレポートは、クレディ・スイスが昨年発表した世界の富に関するレポート「2014年度グローバル・ウェルス・レポート」のデータに基づいている。後者によれば、上位1%の3700万人(成人が対象)の所有する富は、1人当たり79万8000ドル(約9400万円)以上とされている。なお2014年、日本には100万ドル以上の富を所有する富裕層が273万人いたとのことだ。
オックスファムのレポートによると、2014年、上位1%の最富裕層が、世界全体の富の48%を所有した。また、上位20%が、富の94.5%を所有しているという。
上位1%の最富裕層と、それ以外99%の富の格差は、2010年以来、拡大傾向が続いている。もしいまの傾向が続くならば、来年内には、上位1%が世界の富の半分以上を所有することになるという。
「私たちは本当に、上位1%が、残り全体を合わせた以上に富を所有している世界に生きたいのでしょうか。世界の格差の規模は、まったくもって信じがたいほどです。この問題は、世界的な課題として急浮上しているにもかかわらず、最富裕層とそれ以外の差は急速に拡大しています」とビヤニィマ氏は声明で語っている。
声明によると、10億人以上が1日1.25ドル未満で生活しているとのことだ。インターナショナル・ニューヨーク・タイムズ紙などが伝えた。
◆「富の格差の拡大は危険」
ガーディアン紙に対し、ビヤニィマ氏は、現在の富の格差の拡大傾向は、危険であり、反転させる必要がある、と語っている。富の集中によって富裕層の発言力だけが増し、普通の人々の声が届かなくなり、利益がないがしろにされている、とビヤニィマ氏は語っている。
オックスファムのレポートでは、多額の資金が議会へのロビー活動に費やされており、それが富裕層の権益保護に役立っていることが伝えられている。
国際通貨基金(IMF)のラガルド専務理事らは、格差拡大が野放しにされれば、世界経済に損害を与えるだろう、と警告している(ガーディアン紙)。
世界的ベストセラーとなったトマ・ピケティ教授の『21世紀の資本』では、データをもとに、資本主義は一般的に格差拡大を生むことが論じられている。これに対し、ビヤニィマ氏は、「甚だしい格差は、単に偶然起こったことだとか、経済学の本質的法則ではありません。それは、政策の結果なのです。今までと異なる政策によって、格差は減少させることが可能です。私は、変化が起こるだろうということに関して、楽観しています」と語っている。
◆世界不況からの回復過程で格差が拡大
各メディアは、世界不況からの回復過程で、格差が拡大していることに注目している。
フィナンシャル・タイムズ紙は、IMFのラガルド専務理事が先週、「『世界不況』の始まりから6年以上経つが、回復をまだ実感できていない人があまりにも多い」と発言したと伝える。ヨーロッパでは、失業率が11%以上と、なかなか回復しない。アメリカは世界経済の明るい材料だが、経済成長は、中間所得層の生活水準を引き上げるのにはまだ役立っていない、と同紙は語る。
アメリカ国内でも格差は大きな問題だ。20日にオバマ大統領が行う「一般教書演説」では、収入格差の問題が最重要地位を占めると予想されている、とガーディアン紙は伝える。高所得層への課税を厳しくし、中間層への税控除などの財源とする方針が発表される予想だ。現在、共和党が支配する議会の反発を受けることは必至だが、格差問題は、2016年の大統領選挙でも、中心的な議題になりそうだ、と同紙は語る。
またガーディアン紙は、イギリス国内の格差問題についても報じている。同記事には3,000件以上のコメントが寄せられ、ソーシャルメディア上で25,000回以上シェアされている。