“親日”トルコ外交に欧州懸念 米国と対イスラム国で共闘せず、クルド勢力を牽制
親日国のトルコは、欧州とアジアの間に位置し、その動向は国際情勢に大きく影響する。
◆トルコの上海協力機構への傾斜
トルコは、欧米中心の軍事同盟・北大西洋条約機構(NATO)の加盟国だ。しかし、中ロが主導する国家連合・上海協力機構(SCO)への加盟も検討しているという。トルコは既にSCOの対話パートナー資格を得ており、2013年にはエルドアン首相(当時)が、プーチン大統領に対し加盟の意思を表明していた。
昨今トルコは、ロシアとの関係を強めている。ロシアとの天然ガスパイプライン建設合意は、その現れである。
一方、欧米からは一定の距離をとる姿勢がみられる。過去の植民地主義、昨今の中東への武力行使を批判する演説も行った。
背景には、EU加盟交渉が一向に進まない現実がある。トルコよりEU加盟申請が遅かった東欧諸国は、既にEUに加盟している。当初は80%がトルコのEU加盟を支持していたが、現在はその3分の1しか受け入れようとしないのだという。エルドアン大統領は、本当はトルコのEU加盟を望まないEU諸国(特に仏独)の、“二枚舌”を実感していると思われる。
EU加盟の為にはオープンな民主政の執行が必要だが、トルコでは報道の自由が歪められている。逮捕・収監されているジャーナリストの数は、世界でトップレベルだ。報道の自由度ランキングでも、昨年は179ヶ国中153番目だった(以上、スペインのエル・メディオ・デジタル情報紙)。
◆ トルコが有志連合と共闘しないわけ:クルド勢力への牽制
国際社会の脅威である、イラク・シリアのイスラム国(IS)への対処をめぐっても、複雑な状況にある。トルコはNATO加盟国であるため、米国主導の「有志連合」へ加わり、対ISでの共闘が期待されていた。しかし、今も中立的な姿勢を維持している。
表立っての理由は、有志連合がシリアのアサド政権を打倒する姿勢が見えないから、というものだ。ただし、中東事情に詳しいティエリー・メイサン氏は、自身が主幹の仏ボルタイレ・ネットで、2つの背景を指摘している。
1.クルド勢力への牽制
まず、トルコのクルド労働者党(PKK)と連携しているシリアのクルド民主連合党(PYG)の勢力拡大を、トルコ政府は恐れているという。独立を目指すクルド人は、トルコ人口のほぼ2割を占めている。両党が勢力を拡大すると、トルコ自体の分割を招く可能性がある。ISがクルド民主連合と戦うことは、トルコにとって都合が良いのだ。AFPも、トルコはシリアのクルド勢力を挫こうと動いている、と報じている。
一方、イラクのクルド自治区の自衛部隊ペシュメルガが、ISと戦うため、トルコを経由してシリアに入ることは容認した。ただしこれは、彼らが反政府派の自由シリア軍と共闘し、シリア軍とISの両勢力と戦うことを目論んでいる。
2.米国のプランへの反発
次に同氏は、米国がシリアのアサド政権を存続させることを決めているからだ、と指摘した。米国は、もしアサド政権が崩壊すると、無政府状態になったリビアの二の舞となり、隣国イスラエルが危険になると懸念している。そのため米国は、アサド政権の領土を縮小させ、北部をイラクのクルド支配下に委ねようとするプランをもつと予想される。しかしトルコは、クルドの勢力拡大は、いかなるプランであれ容認できない。
なおトルコのプランには、有志連合の中でもフランスが味方している。米国のプランだと、米国が多大の恩恵を受けることに反対しているためだという。