中国、日本→豪州の潜水艦輸出に懸念か アメリカの“暗躍”への警戒も
日本の『そうりゅう』型が候補に挙がっているオーストラリアの次期潜水艦選定問題で、同国のアボット首相が、近日中に初めて公に方針を発表するようだ。地元紙『ザ・オーストラリアン』などが報じた。
オーストラリア海軍は、老朽化した国産潜水艦に代わる新型潜水艦を求めている。日本のほかに、ドイツ、フランス、スウェーデンのメーカーが売り込みをかけており、『そうりゅう』型が最有力候補だと言われている。ただし、最終決定は来春になる見込みで、今回の発表は「国際的なオプションから選択する」といった、他国のオファーにも含みを持たせた内容になりそうだ。
◆「輸入」決定を発表か
オーストラリア海軍は、2026年までに現有の『コリンズ』級6隻を12隻の新型に置き換え、中国の脅威が拡大するアジア太平洋地域での存在感を高める計画だ。前政権は引き続き国産で賄うとしていたが、アボット政権は予算・技術面から輸入に大きく傾いている。
オーストラリアが求めているのは、長期間の外洋航海に十分に対応する通常型の大型潜水艦だとされている。複数の海外メディアが、その要求基準を最も満たす『そうりゅう』型が最有力候補だと報じている。『ザ・オーストラリアン』によると、日豪の防衛省は既に、『そうりゅう』型が豪海軍の要求に合致するかどうか、具体的に協議中だという。
同紙によれば、アボット首相は近日中に「国際的なオプションから選択するプロセスを開始する」旨、発表するという。それは国産案の事実上の放棄を意味する。同首相は、輸入に反対する造船業関係者や野党に配慮し、「輸入潜水艦の国内でのメンテナンス」「国産駆逐艦製造の継続」「8隻のフリゲート艦の新規国内開発・製造」という3つの国内戦略を併せて発表する可能性もあるという。
◆将来の技術交換も視野に
豪海軍が『そうりゅう』型を配備するメリットの一つは、同盟関係にある日米と戦闘システム、通信装置、魚雷などの武器を共有できることだと言われている。
『そうりゅう』型に決まった場合は、航続距離を伸ばす改造が施され、米原子力潜水艦と同じシステムと魚雷を装備することになるという。また、将来はオーストラリアの技術も日本にフィードバックされ、両国は『そうりゅう』の次期改良型の開発と建造で協力する事も視野に入れているという(『ザ・オーストラリアン』)。
米シンクタンク『ヘリテージ財団』のディーン・チェン氏は、「オーストラリアが国際軍事戦略上、強く“物申す”ためには、自国を取り囲む広大な海を調査・パトロールする能力が不可欠だ」と、同国にとっての高性能潜水艦の重要性を強調。そして、「2番目に良い潜水艦を選ぶ事ほど、予算の無駄遣いはない。なぜなら、それは乗組員の棺桶にしかならないからだ」と付け加えた(ブルームバーグ)。
◆「中国の反発」「日本の実績不足」などのハードルも
一方、中国を最大の貿易相手国としているオーストラリアにとって、日米との軍事協力を進めつつ、中国との良好な経済関係を維持するのは至難の業だ。関連報道を取り上げたロシア系メディア『スプートニク』は、「この動きは、日本と地政学的なライバルである中国とオーストラリアの関係に影響しそうだ」と報じている。
豪防衛経済アナリスト、マーク・トムソン氏は、「この取引によってアメリカの重要な同盟国である日豪の関係が強化されれば、中国はそれを暗雲と受け止めるだろう」と、懸念材料の一つに中国との関係悪化を挙げる。また、『ヘリテージ財団』のチェン氏は、「北京は裏でアメリカが暗躍していることをほぼ確実視している」と指摘。中国の識者も、「主要同盟国同士が安全保障関係を高める事は、アメリカの利益にほかならない」とし、『そうりゅう』型の取引についても、アメリカが日豪に「そっと肘打ちし、促している」と主張している(ブルームバーグ)。
また、武器輸出の規制を緩和したばかりの日本に、その実績がほとんどない事も懸念材料とされている。ブルームバーグによれば、オーストラリアの防衛関係者からは、日本、ドイツ、フランス、スウェーデンの「全てのオプションは、それぞれ異なる戦略的、技術的、財政的なリスクをはらむ」といった発言も出ているという。また、アボット首相が今後、「海外で製造された船体と推進システムをオーストラリアで組み立て、アメリカが戦闘システムと武器を供給する」という“ハイブリッド案”を打ち出す可能性もあると、指摘する声もある。