ベネズエラ:150万人脱出の“絶望”経済 原油安が追い打ち、デフォルト懸念も
原油価格の下落が驚くべきスピードで進んでいる。輸入国の日本にとっては得だが、産油国にとっては厳しい情勢だ。南米の産油国ベネズエラは、もともと世界最高クラスのインフレと、財政赤字に直面し、デフォルトの可能性もささやかれていた。追い打ちをかけるような原油安に対し、マドゥロ政権は有効な対策を打てていない。さらに、政府に対する抗議行動を、力で制圧。
なぜここまで悪化してしまったのか。背景と影響を海外報道からみてみる。
◆チャベス政権の弊害
まず、チャベス前大統領の政治のツケと、同氏死後の混乱が根底にある。
チャベス氏は1999年に革命を断行。石油輸出で得た収益を、無計画に、医療・福祉など貧困層の生活改善に充てた。企業への干渉を強化して物価上昇を抑え、価格統制にも関与した。そのため国内産業の発展が鈍った。外資企業に対しては、利潤を本国に送ることも規制。海外企業からの投資は、GDPの僅か1%であった。(ベネズエラ自動車パーツ輸入連盟AIVRAZレポート)。
この間、政府の累積歳入は累積インフレの2倍以上であり、外国への負債は65%増加した。政府の歳入が無計画に消費されていたことを意味する(スペインのエコノミスト紙)。
2013年にチャベスが病死するまでに、ベネズエラ経済は完全に退廃していた。統制経済で毎年ハイパーインフレが繰り返され、輸出は石油だけ(約95%)のため外貨が不足していた。これが経済の不安定に繋がり、治安も悪化した。
チャベス亡き後、彼に忠実な政治家マドゥロが大統領に就任したが、政治に変化はない。むしろ、学生らの抗議運動を警察や民兵を動員して徹底弾圧するなど、状況は悪化している。
◆新聞紙が輸入出来ず
外貨不足から、輸入にも規制が加えられた。新聞を刷る為の紙も輸入できなくなった。政府にとって都合の良くない報道を望まないからだ、とベネズエラ・アル・ディア・デジタル紙は報じている。
同紙によると、国内136の新聞・雑誌のうち、紙不足のために12の新聞と30の雑誌が廃刊を余儀なくさせられた。1904年創刊のエル・インプルソ紙(El Impulso)は発行部数とページ数を減らし、エル・ナシオナル紙(El Nacional)は48ページを16ページに減らして出版を続けている。
これに対し、隣国コロンビアの新聞連盟が同業者としての結束を誓い、今年52トンと62トンのロール紙をベネズエラの新聞社に提供している。プエルト・リコ、パナマ、トリニダード・トバゴからも新聞紙の提供をする用意があると伝えられている。
◆ ベネズエラから世界に飛ぶことも困難になりつつある
アリタリアとエアー・カナダは、ベネズエラへの航空機の乗り入れを中止している。各航空会社は国内でボリバル通貨でチケットを販売することが義務づけられているが、政府のドル換金が外貨不足で滞っているためだ。上記2社の場合は、40億ドル(約4700億円)が未入金となっている(ベネズエラのラ・ナシオン紙)。
このようなハンディーはあるものの、ベネズエラの将来に不安を感じて、既に150万人が国外で生活している。米国のフロリダ、スペイン、イタリア、ポルトガルなどへの移住が進んでいるという(米国のエル・ヌエボ・ヘラルド紙)。