“韓国の民主主義が後退…” 相次ぐメディアへの名誉毀損罪告発、識者ら批判

 産経新聞の加藤達也前ソウル支局長が、朴大統領を誹謗中傷する記事を書いたとして起訴されたのは記憶に新しいが、実は韓国内では、ジャーナリストに対する同様の訴訟が頻発している。政府のご都合主義によるメディア弾圧に、批判の声が挙がっている。

◆民主主義の後退
 ワシントン・ポスト紙(WP)は、韓国紙の世界日報が、朴大統領の元側近の男性が政権人事に影響力を及ぼそうとしたと報じ、名誉毀損で刑事告発を受けている事件を取り上げ、産経以外にも、国内で同様のケースが相次いて起きていると指摘。政権が、気に入らない報道をするメディアの取り締まりを開始した、と報じている。

 韓国史の専門家、ピーター・ベック氏は、朴大統領は父親とそっくりのやり方をしていると指摘。軍人だった朴正煕氏は、大統領就任後の60年代から70年代、韓国に驚くべき経済成長をもたらしたが、報道の自由も含めた、市民の自由や政治的自由は制約された(WP)。

 ソウルのアメリカ人弁護士、ブランドン・カー氏は、起訴は報道する側に恐怖を覚えさせる効果を持つと指摘。政治アナリスト、Lee Cheol-lee氏も、「現在の政権は、政府に不利な記事を書かないようにというメッセージを報道側に与える」と述べ、「現在の状況は、朴大統領が典型的な権威主義的政府を率いていることを示す」ものだとし、「民主主義がこの政権のもとで後退している」と懸念する(WP)。

◆刑は意外に軽い?
 一方、ワシントンの弁護士、ネイサン・パーク氏は、韓国の名誉毀損罪は、言われているほど悪くないと述べる。同氏は、名誉毀損罪の基準はかなり厳しいので、刑事告発を受けた後、検察はしばしば起訴をしないと述べる。また、起訴され審理されても、90%以上が棄却されるか検察の敗訴となると述べ、産経の加藤氏の場合も、「公益性」の擁護から、そうなるだろうと語っている。さらに有罪の判決が下された場合でも、刑は軽く、名誉毀損の初犯には、罰金か執行猶予が典型的であるとのことだ(ウォール・ストリート・ジャーナル紙、以下WSJ)。

 ただ、名誉毀損は力ある者の棍棒として使われることもあるとパーク氏は指摘。加藤氏のケースのように、韓国の政治家は、彼らの印象を悪くする人たちに対して、名誉毀損に持ち込むことをためらわないとし、ビジネスマンでさえも、ライバルや敵意のあるジャーナリストには、嫌がらせの手段としてたびたび使用すると述べている(WSJ)。

◆ジャーナリストは屈せず
 国際人権組織「ヒューマン・ライツ・ウォッチ」は、同組織のサイトで、韓国政府はただちにメディアを黙らせるための名誉毀損罪使用をやめるべきと主張。同組織のアジア局長代理、フィル・ロバートソン氏は、微妙な問題や話題を報じる際、ジャーナリストは政府の威嚇や刑事告発に負けてはならないと述べた。

 WPは、韓国メディアは、少なくとも完全に逃げているわけではないとし、朴大統領の側近から告発を受けている新聞の一つ、「ハンギョレ」の社説の一部を引用している。

「いったいどんな恥知らずの大統領が、自分の国をこんな異常な国にしてしまったと自分自身を責める代わりに、新聞に怒りをぶつけるんだ?」

Text by NewSphere 編集部