オバマの中国批判は口だけ? 進まぬアジア・リバランス政策やTPP、海外識者から懸念も

 アメリカのアジア戦略が、米中のパワーバランスや国際情勢の変化で、ここに来て変わってきているという論調が海外メディアで目立ち始めている。先月5日にケリー国務長官が行った米中関係に関する演説や、同15日のオーストラリアでのオバマ大統領の演説の内容が主な根拠だ。ただし、このオバマ演説とケリー演説には、中国に対する態度に温度差が見られ、取り上げたメディアによって分析結果は割れている。

◆ケリーは経済重視の軟化路線を提唱
 オバマ政権のアジア戦略は、2011年に打ち出された「アジアへの楔(Pivot to Asia)」と、近年強調されている「アジアの再バランス(Rebalance to Asia)」に集約されている。アジア太平洋地域のニュースを扱う『ザ・ディプロマット』は、かつてヒラリー・クリントン前国務長官が説明した前者と、先月5日、ケリー現国務長官が米国内の演説で語った後者に対する説明を比較し、アメリカのアジア戦略の変化に迫っている。

 それによれば、最大の違いは、ヒラリー・クリントン時代には「軍事プレゼンスの拡大」が筆頭に挙げられていたのに対し、現在は環太平洋経済連携協定(TPP)を中心とした経済戦略が、政策目標リストのトップにあることだという。軍事力による中国の“封じ込め”を前提にした以前の「楔」戦略と比べ、現在の対中戦略はかなり軟化しているというのが同メディアの見方だ。

 ケリー国務長官は演説で、TPPなどによる地域の「持続的な経済成長」を筆頭に、「再バランス」を成功させるための4つのキーポイントを挙げた。そして、いずれも「中国との共通の利益をもたらす」という注釈がつけられたという。たとえ建前の部分が多いとしても、現オバマ政権は中国の反発を呼ぶような内容を「かなり控え目にしてきている」と、同コラムは結ばれている。

◆アメリカ大統領が行った最も厳しい中国批判
 一方、オバマ大統領が先月、G20会合が開かれたオーストラリア・ブリスベンのクイーンズランド大学で行った演説は、これまでになく中国に対して厳しい発言を含むものだったという。オバマ大統領は、東シナ海や南シナ海で近隣諸国の脅威になっている中国の覇権主義を念頭に、「紛争に陥る危険がある領土争いが、アジアの未来全体を脅かす」「中国は他の国と同じルールを守るべきだ」などと警告した(シンガポール英字紙『ザ・ストレイツ・タイムズ』)。

 同紙は、このオバマ演説を、オバマ政権が再び中国への警戒感を強めた兆候を示すものだと捉える。その分析によれば、中国の習近平国家主席が繰り返し述べている「大国間関係の新たなモデル」とは、アメリカから中国へのアジアのパワーバランスシフトに他ならず、それが現在進行中の危機であることにアメリカがようやく気づいたのだという。

 オバマ大統領は演説で、アジアの平和と繁栄は「勢力範囲や弾圧、威嚇といった大国が小国を脅すようなことではなく、多国間の安全保障上の協力、国際法、国際常識、そして争いの平和的解決に基いていなければならない」とも述べた。同紙は、中国は今まさに、これと正反対の事を行っていると指摘。1972年のニクソン―毛沢東会談以降の米中関係において、「アメリカ大統領が行った最も公然とした反中演説かも知れない」としている。

◆3年間で大筋に変化はないという分析も
 オバマ大統領は、3年前の2011年11月にも、やはりオーストラリアでアジア戦略をテーマにした演説を行っている。米シンクタンク、戦略問題研究所(CSIS)の公式サイトに掲載されているスコット・スナイダー氏のレポートは、これと今年の演説と合わせて包括的にオバマ政権のアジア戦略を分析している。

 スナイダー氏は、「(アジア諸国との)持続的な経済成長の共有」という基本目標は全く進展していないと指摘。中国の経済成長はスピードダウンしているとはいえ、依然、成長率はアメリカの2倍ペースで推移しており、それにアメリカと他のアジア諸国が対抗するには、現在のオプションでは「TPPに頼るほかない」としている。そして、「TPP抜きにはアジアの再バランスは実現しないだろう」とも記している。
 
 一方でスナイダー氏は、2011年と今年の演説の内容には「一貫性がある」と、『ザ・ストレイツ・タイムズ』とは違った見解を示す。その事が、「アジアの再バランスはリアルで信用できるものだという事実を裏付ける」とも記している。しかし、目標の実現にはもっと時間がかかり、成否は「次の大統領が政策を前に進める能力を持っているかどうかにもかかっている」としている。

Text by NewSphere 編集部