無傷の“幽霊船”、ハワイ沖海底で発見 旧日本海軍の“秘密兵器”が眠る海域で

 米・ハワイ大学と海洋大気庁の調査チームは5日、ハワイ・オアフ島沖の海底で“幽霊船”を発見したと発表した。発見されたのは、第2次世界大戦終結後に沈められた元米軍籍の海底ケーブル敷設船で、操舵輪からマストまで、ほぼ無傷の状態で海底に佇んでいた。そのため、研究者たちは驚きを込めて“幽霊船”と表現した。

 また周辺海域には、当時世界最大の潜水艦で、“潜水空母”の異名を持つ旧日本海軍の秘密兵器『伊400』型潜水艦も沈んでいる。英・ガーディアン紙などが併せて伝えている。

◆太平洋戦争で裏方として活躍
 今回、発見が伝えられた船の名称は、USS『カイルア』だ。船首付近に識別番号『IX-71』のマーキングが残っていたため、容易に特定できたという。米FOXニュースなどの報道によれば、同艦は民間の海底ケーブル敷設船『ディケンソン』として、1923年に米ペンシルバニア州で進水式を行い、ハワイを拠点に1941年までミッドウェー島やファニング島付近で、海底通信ケーブルの修復や資材運搬に活躍したという。

 1941年12月7日に日本軍による真珠湾攻撃が行われ、太平洋戦争が勃発すると、同艦はミッドウェー島から通信会社の英国人従業員ら避難民を乗せ、ハワイに帰港した。その際、日本軍の潜水艦に追尾され、それを米軍艦が追い払う一幕もあったという(FOX)。その後、米軍に接収され、USS『カイルア』として、終戦まで潜水艦防御用ネットや通信ケーブルの敷設に従事した。

 戦後は、米軍も元の所属会社にも必要とされず、1946年2月7日、友軍の魚雷によって沈められた。その詳しい沈没位置は記録されなかったため、今日まで“行方不明”となっていた。「ディケンソン(カイルア)は、黎明期の太平洋の通信から第2次世界大戦まで、その特殊な任務を暗い海の底から我々に語り続ける一種の博物館展示だ」と、海洋大気庁のハンス・ヴァン・ティルバーグ研究員は語った(FOX)。

◆ほぼ無傷の状態で発見
『カイルア』の調査は、同庁のパイシーズ深海探査艇を使って行われた。パイシーズは、2002年に、真珠湾攻撃の直前に米駆逐艦『ワード』号に沈められた旧日本海軍の特殊潜航艇『甲標的』を発見するなど、多くの実績を誇る。

 操縦士のテリー・カービー氏は、「パイシーズで大きなソナー・ターゲットに近づくのは、いつもスリリングだ」と語った。『カイルア』発見時に最初に視界に入ったものの一つは、「無傷で残っていたクラシック・スタイルの操舵輪」で、「船首から船尾にかけての上部甲板の構造物はよく保存され、魚雷のダメージは全く見られなかった」という(英デイリー・メール紙)。

 デイリー・メール紙によれば、『カイルア』はアメリカ政府の所有物となり、連邦財産として保護されるという。引き上げ、修復の予定はないが、海洋大気庁の海洋遺産プロジェクトの責任者、ジェームズ・デルガド氏は「我々はこの残骸をアメリカ合衆国国家歴史登録財に推薦しようと思っている」と語った。

◆付近には旧日本海軍の「海底怪獣」も
 ガーディアン紙は、『カイルア』が沈んでいたオアフ島から20マイル沖の海域には、先述の旧日本海軍の『甲標的』のほか、大型潜水艦『伊400』型2隻も沈んでいることに触れている。『伊400』の残骸は、昨年8月にやはりハワイ大学の調査によって発見され、同型艦の『伊401』も2005年に発見されている。
 
『伊400』型は、1960年代に核ミサイル搭載可能な潜水艦が開発されるまで、世界最大の潜水艦だった。防水を施した格納庫に専用設計の『晴嵐』水上攻撃機3機を搭載し、“潜水空母”の異名を持つ。浮上して同機を射出し、敵に発見される前に潜水するという運用計画のもと、日本海軍の秘密兵器として開発された。ガーディアン紙は、こうした背景を持つ『伊400』を、「海底怪獣」と表現している。

『伊400』『伊401』は、1944年に進水。アメリカ本土やパナマ運河への攻撃が計画されていたが、既に戦局は悪化しており、目立った戦果を挙げることなく終戦直後に米軍に拿捕された。共にその後、米軍により魚雷で破壊され、オアフ島沖の海域に沈んだ。ガーディアン紙は撃沈の理由を「米軍が旧ソ連に技術が流出する事を恐れたため」としている。

Text by NewSphere 編集部