原油価格下落は、サウジの賭け…イラン、ロシア締め付け目的で身を切る

 原油価格が急激に下落している。ここ数年、1バレル=100ドル前後で推移していたが、秋以降に下落が続き、今では1バレル=70ドルを下回る水準だ。6月下旬から12月初めにかけて、38%下落したことになる。

 主な要因は、米シェールオイルの増産なども影響した供給過剰・需要低迷だ。OPECが、原油価格維持のための減産を拒んだことが引き金となった。これは、イランとロシアの経済を窮状に導く、サウジアラビアの戦略だと報じられている。

◆原油安の要因とロシア、イランの苦悩
 サウジやカタールなどは、原油価格が1バレル=70ドルでも採算は取れると言われている。一方、他国の採算ベースは、ロシアが101ドル、イランは136ドルだと推定されている(スペインのロボットペスカドール情報紙)。

 イランの国家収入の60%は石油の輸出に依存し、GDPの25%に貢献している。またシリアとイラクへの多額の出費も余儀なくさせられている( BBC ムンド)。

 ロシアは、石油と天然ガスの輸出が全輸出額の68%を占め、国家予算の50%がその輸出による収入である。原油価格の下落、石油と天然ガスの輸出減少の影響で、今年は既に900億ドルの減収につながっている。その影響もあって、通貨ルーブルは6月から35%安となっている。金融専門家の間では、現在のロシアは、1998年8月に破綻した時と同じ様相を呈しつつある、と懸念されている( BBC ムンド紙)。

◆サウジの戦略
 日本のような石油輸入国にとっては、原油価格の下落は非常に良いニュースである。しかし、OPECは原油価格維持のための減産をなぜ見送ったのか。中東専門家のマイケル•ステフェンス氏は、サウジは、中東のライバルであるイランの勢力拡大を抑え、またイランが支援するシリアのアサド政権を背後から支援しているロシアをも同時に叩くという戦略を取っている、と語る( BBC ムンド)。キッシンジャー元米国務長官も、イランが中東における新ペルシャ帝国を築き上げる可能性を懸念しているという(ヒスパノTV)。

 イランとの核和平協議開始以降、欧米は強硬派を宥めるかのように、穏健派のロウハニ大統領を利用し、経済面での売り込みを展開してきた。しかしサウジから見れば、イランはロウハニ大統領の友好ぶりを前面に出してはいるが、中東を支配したい姿勢がうかがえる、というのだ。例えば、イランの革命防衛隊のイラクへの介入が無ければ、イスラム国の支配下になっていた。

◆サウジの中東での勢力維持の為のイラン叩き
 そこでサウジは、原油価格の下落を容認したというのだ。イランもロシアも、国内経済は石油の輸出に大きく依存しており、原油価格の下落は苦しい状況をまねく。昨年150億ドルの収益を得て、現在7410億ドルの外貨を保持するサウジにとっては、安価な原油価格を維持することは当面は可能である。両国の窮状に米国が救援に介入する可能性もほぼない。

 前述のマイケル•ステフェンス氏の分析、つまり需給バランスではなく、サウジの勢力維持戦略が価格決定に作用しているという仮説は、参考にすべきである。

Text by NewSphere 編集部