日本も他人事ではない、EUの移民議論 経済成長と社会保障費増大のジレンマ
豊かなEU加盟国への移民が、年々増加している。しかしEU主要国は、社会保障費の増加などを懸念し、移民受け入れに消極的だ。EUの景気は6年続いて低迷し、政府の歳入も減少している。高齢者の増加もあって、これからも社会保障費は増加する傾向にある(ロイター)。
◆出生率と労働力の関係
現在のEUの出産率は、1000人あたり9-13人である。日本同様、人口減少社会を迎えている国もある。例えばドイツの人口は8200万人だが、2050年には7470万人、2060年は6500万人になると推測されている。ドイツへの移民は一定の率を保ち、大幅な増加はない。
一方、英国、フランス、アイルランドは、移民の増加で人口が増える傾向にある。英国は2050年には人口が7720万人となり、EUで最大の人口を抱える国になると予測されている(ロイター)。
◆英国の移民増加による懸念
景気が低迷しているEUで、英国は顕著な経済成長を示している。英国に仕事を求め、経済が低迷しているEU諸国からの移民が増加している。昨年度の移民は26万人だった(AFP)。
シェンゲン協定によって、EU圏内では移動が自由であり、移民希望者は容易に英国に入国できる。EU諸国から英国への移民は270万人で、人口の4.3%を占めている。また就業率は78.8%だ。ただ、最低限の社会保障を受給している移民は40万人だという(スペインのエル•パイス紙)。
移民増加は社会問題につながる。総選挙を6ヶ月後に控えたキャメロン首相は、過度の移民の入国に反対する独立党の躍進を受け、移民を制限する複数の案を提示した。例えば、入国から6ヶ月経過しても仕事が見つからない移民は、国外へ退去させられる。社会手当も、4年以上の勤務経験がないと受給できないとする、などの案があがっているようだ(スペインのエル•パイス紙)。
◆EU委員会らの姿勢は
移民を制限しようとするキャメロン首相の姿勢に対し、EU委員会は、シェンゲン協定に反するものとして検討する必要があるとしている。
それに対してキャメロン首相は、もし英国の政策が容認されないのであれば、EUからの脱退も辞さない、という姿勢も示している。メルケル独首相やユンケル欧州委委員長は、英国の姿勢に対し、段階的な受け入れをする用意があると述べているという(以上、スペインのエル•パイス紙報道)。