台湾親中派の大敗、中国への「しっぺ返し」 香港デモ弾圧が影響か 海外分析

 台湾の統一地方選が11月29日に投開票され、中国との関係強化を掲げる馬英九総統率いる与党・国民党が歴史的大敗を喫した。海外メディアでは、この“反中派の勝利”を、香港の民主化要求デモと結びつけて論じる報道が目立っている。

◆「今日は香港、明日は台湾」
 「今日は香港、明日は台湾だ有権者たちは感じ取った」――。中国政治が専門の香港城市大学のジョセフ・チェン氏は、英・ガーディアン紙とAPに語った。台湾国立政治大学のクウェイボ・ファン助教授も、台湾の人々は香港のデモに対する中国当局の厳しい弾圧を見て、「中国と統一すれば何が起きるかということを見せつけられた」と述べている(AP)。

 台北市長選などに勝利して躍進した野党・民進党は、選挙で中国と一定の距離を保つことを訴えたとAPは記す。逆に、馬総統が2008年の就任以來進めてきた「本土との融和的な関係」は、「一線を超えた」と有権者の目には映ったようだ。その例として、webメディア『ザ・ディプロマット』は、2010年に中国との経済協力体制を強化する両岸経済協力枠組協議(ECFA)に合意した件と、さらに今年、中国と「サービス貿易協定」を結ぼうと馬政権が動いたことを挙げる。

 香港では30日夜から1日朝にかけて、民主派のデモ隊が政府関係のビルを包囲しようとし、警官隊に阻まれて失敗した。一方、台湾では今年春、前記の「サービス貿易協定」締結に反対した学生らが国会を包囲する「ヒマワリ運動」を展開。ガーディアン紙などは、この2つの反中抗議活動を関連づけて論じている。台湾のデモの参加者には、香港デモの象徴的なアイテムである「傘」を手にする者もいたとも報じられている。
 
◆若者を中心に渦巻く不安
 APによれば、香港と台湾では共通して、一般的に中国と関係強化を望むのは「ビジネス・政治のエリート層」で、それを不安視しているのは若者や中産階級だという。

 『ザ・ディプロマット』は、2009年の世界的な経済危機以降、馬政権は効果的な経済対策を打ち出せずにおり、台湾では「若者の失業率は高く、雇用保険は貧弱。生活費だげが上がっている」と指摘。こうした経済状況を反映して与党国民党への不信感が高まっていたとしている。

 それに加えて、中国と近づきすぎれば、「経済的に中国に飲み込まれるのではないか?低賃金労働を強いられ、物価だけが上がるのではないか?」という不安が、香港と台湾の若者の間に渦巻いているとAPは論じる。台湾の識者の一人は、APの記事で、今回の選挙について、「中国と近づきすぎるのは危険だということが、大きな論点になった」と述べている。

◆中国の強硬姿勢は続く?
 台湾の統一地方選の後、中国の習近平国家主席は「今回の選挙結果には留意している」と述べ、関心の高さを伺わせた。そして、「台湾海峡の向こうの同胞が、海峡をまたいだ関係の容易ではない成果を大切にし、平和的な発展を共に守り、推進し続けることを望む」という談話を発表した(ガーディアン紙)。

 ガーディアン紙は、中国アナリストのジョナサン・フェンビー氏の見解を引用し、習主席らは最近、新疆ウイグル自治区やチベットに対する弾圧強化姿勢を、台湾や香港にも持ち込もうとしていると記す。フェンビー氏によれば、最近の中国国営メディアに出回っている論調には、『台湾の「分離主義者」たちは、日本かアメリカに陰で操られている』といったものもあるという。

 習主席は、安倍首相との初会談を行うなど、日本や東南アジア諸国とは軟化路線に転じつつあるが、香港のコメンテーター、ディーン・チェン氏は、ガーディアン紙に、「同様のスタンスを香港や台湾に取る可能性は低い」と語る。その理由は、国内の派閥のライバルと民主派の市民の両方から弱々しいと見られ、つけ込まれるリスクがあるからだという。

 一方、『ザ・ディプロマット』は、台湾の選挙結果は、香港への弾圧に対する「今後向けられる一連のしっぺ返しの最初のものだ」と中国に警告している。

Text by NewSphere 編集部