日本のエボラ未承認薬、「要請あれば提供」と政府方針 在庫多く海外注目
菅官房長官は25日の記者会見で、エボラ出血熱への効果が期待される日本製のインフルエンザ治療薬「ファビピラビル」について、世界保健機関(WHO)からの要請や、医療従事者から緊急の要請があった場合には、日本の国際協力の一環として、企業と協力して提供する用意がある、と発表した。
【感染拡大が止まらない。さらに、別個のエボラウイルスの出現も確認?】
WHOの22日付発表によると、西アフリカでは20日までに、エボラ出血熱による死者数は1427人、感染者数は疑い例を合わせて2615人となった。
24日には、アフリカ中部のコンゴ民主共和国で、西アフリカとは別のものと見られるエボラウイルスが確認された、という発表があった。エボラ出血熱により医療従事者5人を含む13人が死亡したと見られると、同国のカバンゲ保健相が発表した。また、読売新聞によると、コンゴの赤道州では、エボラ出血熱と似た症状での死者が、ここ数週間で約70人出ていたという。
アルジャジーラ・アメリカによると、1976年に初めてエボラ出血熱が(スーダンと同時期に)コンゴで発見されて以来、同国ではこれまで6回の集団発生があり、その犠牲者数は合計760人を超えているという。ちなみに、同国赤道州にはエボラ川が流れており、それが名前の由来となった。
【イギリス人初の感染者。ZMappの在庫がない中、ファビピラビルへの期待が高まる】
24日、シエラレオネの医療施設で働いていたイギリス人男性の、エボラ出血熱への感染が確認され、イギリス人では初の感染者となった。英テレグラフ紙は、この男性が治療のために母国に航空搬送された折、菅長官が、緊急の要請には応じる用意がある、と表明したことを、期待を込めて報じている。というのも、同紙によると、「現在、エボラ出血熱に対する、入手可能な治療薬やワクチンは存在していない」からだ。
アメリカ人の医師ら2人が、先日、エボラ出血熱に感染した際は、未承認のエボラ治療薬「ZMapp(ズィーマップ)」が投与された。その後、2人は容体が回復し、すでに退院している。もっとも、これが薬の効果によるものなのかははっきりしない、とAP通信は伝えている。同薬は、感染したスペイン人神父にも投与されたが、こちらの患者は死亡した。
しかし、このZMappは、すでに在庫がなくなっているという。テレグラフ紙によると、開発元である米「マップ・バイオファーマシューティカル」は、今月、全ての利用可能な在庫を西アフリカに送ったと発表した。アルジャジーラによると、それらはリベリアで、アフリカ人医師3人を治療するために使用されたとのことだ。AP通信などによると、リベリアのブラウン情報相は25日、そのうち1人が死亡したと発表した。
【ファビピラビルがエボラ治療薬として期待される理由とは?】
「ファビピラビル(商品名・アビガン)」は、富士フイルムホールディングス傘下の富山化学工業株式会社が開発した。日本では3月に、新型インフルエンザと再興型インフルエンザの治療薬として認可された。アメリカでは現在、季節性インフルエンザの治療薬としての臨床試験が進んでいる。
「エボラウイルスとインフルエンザウイルスは同じタイプであり、理論上、同様の効果がエボラウイルスに対しても期待できる」、と富士フイルムの広報担当者が語っているとAP通信は伝える。
ファビピラビルの強みの一つは、豊富な在庫量だ。広報担当者によれば、同社には患者2万人分以上のストックがあるとのことだ。テレグラフ紙とAP通信が伝えている。
またZMappの場合、実際に患者に投与されるまで、一度たりともヒトでの臨床試験が行われていなかったと、AP通信は伝えている。ファビピラビルの場合は、インフルエンザ治療薬としてではあるが、すでに臨床試験例がある。AP通信によると、エボラ治療薬としての臨床試験について、米食品医薬品局と協議中であると、広報担当者が語ったという。
【未承認薬の使用をめぐってWHOで進む協議】
WHOは現在、エボラ出血熱の感染拡大に対応するために、試験段階にある未承認薬の使用をめぐって検討を続けている。11日には医療倫理の専門家による諮問委員会を招集した。そして12日、現今の状況下では、条件が満たされた場合には、効果や副作用が現段階では未知数であっても、倫理的に問題ないという合意に達した、との声明を発表した。また9月初頭には、実際の使用を視野に入れた、100人以上の専門家らによる大規模な会合が開催される予定だ。
菅長官は、政府として、WHOの議論を注視していく、と語っている。しかしながら、WHOの結論が出る前であっても、緊急の場合には、一定の条件の下で個別の要請に応じる用意がある、とも表明した。一歩踏み込んだ対応と言えよう。
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