民主主義より経済安定が大事? 香港で「親中国」デモ開催 ただし官製デモ疑惑も

 香港で17日、数万人が参加する大規模なデモが行われた。香港では、7月1日にも、大規模なデモが行われている。だが、これら2つのデモは、正反対の主張を掲げて実施されたものだ。今、香港で何が起こっているのか。

【一連のデモの焦点は、香港の首長の「普通選挙」問題】
 今回のデモは、前回のデモへの対抗措置として行われたものだ。そこで、まず、前回のデモのあらましを見てみよう。

 香港は、南京条約により長らくイギリスの領土であったが、1997年7月1日に中国に返還された。返還後も「一国二制度」として、言論の自由や司法の独立など、中国本土とは異なる社会体制の継続が認められた。ただ、「高度な自治」は認められているものの、中央政府から完全に独立しているわけではない。

 例えば首長である行政長官は、「選挙委員会」が候補者を指名し、投票を行う間接選挙によって選出される。この選挙委員会は、中央の全国人民代表大会の香港代表者、中国人民政治協商会議の香港地区委員などで構成され、中央政府の意向が強く働くようになっている。

 中央政府は、2017年より、この行政長官の選挙を普通選挙化することを認めている。しかし、候補者は「指名委員会」が指名する、という制度が想定されている。これまで同様、中央に対して批判的な候補者は、認められない可能性が高い。

【香港の民主派の間に広がる懸念とは?】
 7月1日に行われたデモは、まさにこの点を問題視したものだった。民主派団体は、毎年この日にデモを実施しているが、今年は「完全な普通選挙」の実現を求めて、例年以上に大きなうねりとなった。主催者発表によれば、51万人の参加者があった。ちなみに香港の人口は、外務省のデータによると、2013年2月時点で約717万人である。ただし参加者の人数は、警察発表では9万8600人、香港大学の調査では15万4000人から17万2000人と、大きなばらつきがある。

 今年6月に、中央政府は香港に関する白書を発表したが、そこには「中央政府が香港の全面的な統治権を持つ」ことが明記されていた。香港に対しての中央支配を強化する姿勢がうかがわれたため、民主派の香港市民の間に大きな懸念を引き起こしたと言われている。

 民主派団体は、その後、同月下旬に、中央政府の介入なしに候補者が立候補できる改革案を提示し、これを支持するかを問う模擬投票を実施した。身分証明書番号を登録した上でのインターネット投票と、投票所での記入投票が行われた。すると、78万票の支持投票が集まった。重複票など、不正投票が完全に取り除けていないのではないか、という指摘はあるものの、この投票数は、主催者側をも驚かせるものだった。

【「中環を占領せよ」と「中環を占領するな」】
 ウォール・ストリート・ジャーナル紙の伝えるところによると、民主派団体の中に、「占領中環(オキュパイ・セントラル)」という運動を提唱している一派がある。2011年のアメリカでの抗議運動「ウォール街を占拠せよ」にならったものだ。中国政府は、今月にも、2017年の行政長官選挙についての方針を発表する予定である。この団体は、その方針が十分に民主的なものでなかった場合、大規模な抗議行動を実施すると訴えている。名前の通り、金融街である「中環(セントラル)」を占拠するというのだ。

 7月1日のデモ後にも、参加者の一部が中環で座り込みを行い、500人以上が警察に拘束されるということがあった。

 今月17日に行われたデモは、この「占領中環」に反対する、というのがスローガンだ。主催したのは「保普選・反占中大連盟」という、7月のデモ後に結成された団体である。主催者発表によると、デモの参加者数は19万3000人。警察の見積もりでは11万6百人で、香港大学の調査では7万9000人から8万8000人と見積もられた。

 WSJは、同じ場所で撮影した、2つのデモの写真を掲載。7月の民主派団体デモの方が、多くの人が参加していることが一目瞭然だ。

【よく準備されたデモだった】
 フィナンシャル・タイムズ紙は、このデモが、体制側の組織した官製デモのようなものであることを、皮肉交じりにやんわりとほのめかしている。

 異なる団体の参加者が、まったく同じシャツと野球帽で集まっていて、「『占領中環』ダメ!」などの(同じ)文句の書かれたプラカードを持っていて、このデモは、よく計画されているように見えた、と記事は語る。

 また、香港にある中国国営企業は、従業員に、無料の交通手段と食事、その他に職場関係での報償を申し出つつ、このデモ行進に参加するよう圧力をかけていた、と地元メディアで報じられていた。香港出身で、今は中国本土に住んでいるある参加者は、自分はこのデモに参加するよう、香港の公益事業団体から熱心に勧められ、現地までの交通手段を無料で提供された、とフィナンシャル紙に語っている。デモの主催者側はこれを否定しているという。

【ウォール・ストリート・ジャーナル紙は民主派に暗い見通し?】
 ウォール・ストリート・ジャーナル紙は、このデモの結果を受けて、市民的不服従への人々の支持は、徐々に弱まっているようだ、と推論する。「占領中環」運動に対して、香港経済を危険にさらすものだという非難があるという。そして反対運動のほうは、「占領中環」の悪影響に焦点を置くことで、多くの香港市民の実際主義に訴えている、と語る。多くの人は民主主義を支持しつつも、ただ日々の暮らしを送り、妨げられずに仕事に行くことをも求めている、と言うのだ。

 また「保普選・反占中大連盟」は、民主派の模擬投票に対抗して、署名活動を行った。「わたしは暴力に反対します。『占領中環』運動に反対します。香港の平和を支持します。香港の民主主義を支持します」という声明に、150万人近くが署名した、と同連盟は語っている、とフィナンシャル・タイムズ紙が伝えている。同連盟は、「占領中環」は暴動であると印象付けようとしているようだ。

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Text by NewSphere 編集部